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革新的衛星技術実証2号機 実証テーマ
初の国立高専開発衛星で超高精度姿勢制御・超小型LinuxマイコンボードによるOBC・木星電波アンテナ展開技術の実証を行う
高知工業高等専門学校
今井 一雅 客員教授・名誉教授
群馬工業高等専門学校
平社 信人 教授
全国の国立高専10校が連携して開発しているキューブサット高専連携衛星1号機「KOSEN-1」。その先進的な科学・工学ミッションだけでなく、衛星開発による「究極のものづくり教育」としての教育効果も期待されている。今回実証する3つのテーマについて高知高専・今井一雅氏、群馬高専・平社信人氏にお話を伺った。
- ご自身の研究/業務内容について教えてください。
今井 専門は宇宙電波工学で、長年、木星から来る電波の研究をしています。現在は、高知高専の客員教授として「KOSEN-1」のプロジェクトマネージャを務めています。
平社 群馬高専で学生の指導に当たりながら、宇宙機等の姿勢制御、移動ロボットの自律誘導や関節形ロボットなど、主に最適制御を専門として研究を行っています。教育者・技術者・研究者の三つの立場から業務に当たっています。
- 今回、革新的衛星技術実証2号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。
今井 革新的衛星技術実証2号機に搭載する木星電波観測技術実証衛星「KOSEN-1」のテーマは3つあります。
平社 1つ目が衛星の高精度姿勢制御の技術実証です。
KOSEN-1の姿勢制御では、姿勢角を検出するシステムとして広角カメラを用いています。このカメラは、人間の視野では非常にひずんだ曲線のカーブで景色が見えるものですが、そのひずみ曲線を関数化し数学的に解くことで、カメラに写っているポイントからどちらの方向を向いているかを識別することができるシステムを開発しました。
具体的には月の画像を見て、衛星と月の位置から自分の姿勢角、基準値からのズレ量を識別することができます。
さらに、もうひとつの姿勢角を検出するシステムとして磁場センサを用いたシステムを備えています。低価格で汎用性があり取り扱いも容易な磁場センサを選択し、安価な民生品も多用していますが、ソフトの工夫で高価なものに匹敵するパフォーマンスを実現しようと考えています。
また、姿勢制御には磁気トルカとデュアル・リアクションホイールというふたつの方法を採用していますが、キューブサットの3軸に磁気トルカを積んで、民生品を用いた磁場センサから磁気トルカの3軸制御をするのは非常に画期的です。さらにキューブサットクラスでデュアル・リアクションホイールを搭載するのは実装スペースの観点から非常に困難を伴いますが、今回は薄型の2台のリアクションホイール用モーターを自主開発して搭載しています。
今回の実証を通じて、安価な部品を用いて高精度な機器を作ることができるということを証明していきたいと思います。
今井 2つ目は「超小型LinuxマイコンボードによるOBC」です。
OBCとはオンボードコンピュータのことで、衛星の心臓部です。Raspberry Pi(ラズベリーパイ)という小型コンピュータの中でももっとも消費電力の小さい「Raspberry Pi Zero」をベースとしたOBCを使って常時運用を行う、かなり先進的な取り組みです。またこのコンピュータはLinuxというOSで動くもので、全国の10高専が連携して多くの学生がソフト開発に関わっています。
3つ目は、木星から来る強力な自然電波放射機構を解明するための観測です。
木星からの電波は波長の長い短波帯ですので、長さ7メートルのとても長いアンテナを軌道上で展開します。今回の技術実証は将来的に月の周回軌道で木星からの電波を観測するときにも重要な役割を果たすと考えています。
- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。
今井 「高専スペース連携」という全国高専の宇宙理工学関係の教員グループがあり、そのメンバーを中心として、7年前、文部科学省の「実践的若手宇宙人材育成プログラム」に「国立高専超小型衛星実現に向けての全国高専連携宇宙人材育成事業」というタイトルで応募し採択されました。その事業を出発点として超小型衛星の開発を行ってきましたが、実際にその衛星をロケットに搭載するところまでは経験がありませんでした。そこで今回、革新的衛星技術実証プログラムに応募しました。
平社 昨今、ミッション主体の衛星開発が主流になる中で、このような実証機会の公募が出たことに感銘を受け、斬新な技術を試すことができると思い応募しました。私の担当は技術部門なので、軌道上で姿勢制御系の実験データを取る研究等もやってみたいという気持ちが強くありました。
- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。
今井 我々が初めて応募したのがこのプログラムでしたが、従来の相乗り衛星ではなく、キューブサットもひとつの衛星という位置づけで扱ってもらえるありがたいプログラムだと考えています。
平社 以前、私はイプシロンロケットの前身であるM-Ⅴロケットの開発に携わっていました。並々ならぬ愛着と思いがあるイプシロンロケットで、自分自身が技術課題を提案して、設計開発したキューブサットを打ち上げられるというのは、思いもひとしおといったものがあります。
- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えて下さい。
今井 「KOSEN-1」はいろいろな高専が分担して開発していますので、なかなか一堂に会して情報共有するということができません。コロナ禍もありましたので、それを克服するために30人近い開発メンバーで毎週1回、オンライン会議を開いています。これは新しい連携のあり方を実践するモデルになるのではないかと思います。
さらに開発にあたっては、EM(エンジニアリングモデル)などの衛星試験を開発過程の重要な関門として位置づけ、それをクリアすることが、次のステップへの起爆剤になるようにしてきました。
平社 今回は前例のないことをやっていますので、調べても載っていない、何から手を付けていいのかわからないことがたくさんありました。
学生が「調べたけれど、どこにも載っていない」というとき、私は「載っていないのは世界で初めてやることだからだ。世界初の課題に臨めるとはラッキーだ」と答えて励ましました。特にデュアル・リアクションホイールを開発したときは、薄型化するためコイル巻きもすべて手作業で行いました。学生がガッツで臨んで解決していったということが、困難を乗り切るポイントだったと言えるでしょう。
- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。ご感想、ご要望等お聞かせください。
今井 JAXAの方々には、衛星の環境試験にも立ち会っていただくなど、いろいろな形でアドバイスをいただきました。我々はゼロからスタートしていて、わからないことだらけでしたので、非常にうれしく思っております。
平社 いつもとても丁寧な助言をいただき助かっています。技術的なサポートに加え、打上げまでの運用に必要となる諸手続などに関するサポートもあって感謝にたえません。またJAXAが技術者育成のための教育にも力を注いでいることもとても強く実感しました。
- 革新的衛星技術実証2号機での実証後の展望についてお聞かせください。
今井 人工衛星開発は究極のものづくり教育であり、重要なのは継続性です。
「高専スペース連携」としては、毎年の衛星打上げを継続していくことを目指していますが、次の革新的衛星技術実証3号機では「KOSEN-2」が採択されました。「KOSEN-1」のノウハウをすべて「KOSEN-2」、さらに後続機に注ぎ込みたいと思います。
また、文部科学省に新たに採択されました宇宙航空人材育成プログラム(代表校:新居浜工業高等専門学校)の一環として「全国高専宇宙コンテスト」の開催を予定しています。さまざまな高専の学生が宇宙ミッションのアイデアを競うコンテストで、2020年11月に「プレ宇宙コンテスト・ワークショップ」を開催し、そのワークショップのために「KOSEN-1衛星シミュレータ」という教材を開発しました。
これは同じソフトを動かすことができるコンピュータが内蔵された実物大の衛星モデルで、みんなで衛星のソフト開発ができるようになっています。このような工夫をしながら、多くの学生にKOSEN-3、4のミッションを考えてもらって、高専が連携してレベルの高い衛星ミッションを実現させるという流れを作っていきたいと思っております。
平社 実証後は運用のノウハウ、テレメータの解析方法、姿勢制御系の校正などをさらにブラッシュアップしていきたいと思います。
またOBC系、バス系、姿勢制御系といったサブコンポーネントをそれぞれプロトタイプ化してキューブサットのキットにして普及させることができればと思っています。
これらの衛星開発を通じてサブコンポーネントをプロトタイプ化することで、エンターテインメントなどの宇宙市場の創出、消費媒体を生み出すことに貢献できればと思います。
- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。
今井 「KOSEN-1」という衛星の名前は国立高専が連携して打ち上げる最初の衛星という意味を込めています。我々にとって初めてとなる「KOSEN-1」衛星を応援していただいて、多くの皆さんと衛星開発の技術情報を共有することにより、衛星を打上げる裾野を広げていくことができればうれしく思います。
平社 今回の衛星は全国各地にある高専が連携して開発するという他に例を見ない開発形態となっています。全国各地にある開発拠点でサブコンポーネントを開発しており、遠隔地で開発したコンポーネントがどういうふうに組み立てられていくかというロールモデルになると思いますので、注目していただきたいと思います。また高専ということもあり、ほとんどの開発スタッフが10代であることも知っておいていただきたいですね。