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革新的衛星技術実証1号機 実証テーマ
宇宙大型構造物構築の時代を見据え 多機能薄膜の展開技術を宇宙で実証
東京工業大学 工学院 機械系
坂本 啓 准教授
中西 洋喜 准教授
太陽電池やアンテナなどのデバイスが載せられた薄膜は、折り紙技術で小さくたたまれてキューブサットに格納されている。キューブサットが打ち上げられたのち、薄膜は軌道上で1m四方の大きさへ展開する。 その薄膜宇宙構造物の展開技術を研究している東京工業大学の坂本啓准教授と、宇宙で組立や保守といった軌道上サービスを行うロボット技術を研究している同大学の中西洋喜准教授に、革新的衛星技術実証1号機での実証がもたらす成果や期待をお聞きした。
- 先生方のご研究について教えてください。
坂本 私は大型の宇宙構造物をどう作るかをテーマに研究しています。小学生の頃、「機動戦士ガンダム」のスペースコロニーを見て、自分でも巨大な構造物を宇宙につくってみたいと夢見たことが現在につながっています。 以前、JAXAの小型ソーラー電力セイル実証機IKAROSのプロジェクトに参加したときには、14×14mの膜構造物の展開シミュレーションなどを担当しました。
中西 将来的には宇宙空間の構造物の上でロボットが動き、構造物を造る宇宙組立て技術が必要となると考えられ、私はそのような機構面、ロボティクスの部分の研究開発を担当しています。 薄膜展開技術の先に、数km四方の巨大な太陽光発電衛星を構想して、坂本とともに研究を進めています。
- 今回の「3Uキューブサットによる高機能展開膜構造物の宇宙実証」の技術はどのようなものですか。
坂本 大きく分けて3つの技術を構築します。第一に、10×10×34cmの超小型衛星「OrigamiSat-1」の筐体に小さく折りたたんで収めた1m×1mの膜構造物を、軌道上で確実に展開する技術の実証を行うものです。
薄膜上には太陽電池やアンテナを載せており、そういうデバイスが載ったままでもきれいにたたまれ、きれいに開くところが、私たちの技術の大きなポイントです。
第二に、「OrigamiSat-1」にはカメラを計5台搭載し、ステレオ画像、動画で膜が開くところを撮影して、宇宙での挙動や形状を計測します。今回の実証では、今後の展開構造の計測実験を行うための「実験プラットフォーム」を構築することも目指します。
第三に、アマチュア無線帯での高速通信ミッションも行います。
- 本プログラムへの応募動機は。
坂本 先のIKAROSプロジェクトは大成功でしたが、後から展開膜の挙動データを見ると、膜の剛性の影響など予測外の現象が見られました。 自分が学生時代から取り組んできたシミュレーションの前提が誤っていたことに衝撃を受け、展開構造を宇宙で実証する大切さを痛感しました。シミュレーションというのは基本的に、自分たちが予想した範囲の現象しか再現ができません。 地上ではわからない予想外の現象と、そのメカニズムを知るために、この実証機会は非常に重要であると考え、応募しました。
中西 宇宙でロボット等の機構を動かそうというときには、いくら地上で実験しても限界があります。宇宙で動かすには、宇宙で実験を繰り返し、実際に使えるものだと認めていただくことが重要なのです。
- 実証を通して期待する成果はどのようなものでしょうか。
坂本 まずは新しい展開構造技術の実現可能性を示すこと。そしてその展開挙動や展張形状を計測して、さらに大きな展開構造物を設計するための知見を得ることです。今回は軌道上での構造計測技術も実証します。 この民生用部品を組み合わせた計測システムを利用すれば、今後も宇宙構造物の動きや形が計測できるようになります。アドバンストミッションとして、展開膜上の薄膜太陽電池と膜上アンテナについても確認します。
中西 画像データを地上に伝送するダウンリンク手段の実証も重要なミッションです。今回はアマチュア無線通信をしている方々に協力していただき、高速で伝送するデータを地上で受信していただくチャレンジをする予定です。
- 他の実証機会もある中で、今回のプログラムを選んだ理由はどのようなものでしょうか。
坂本 もともと検討していた宇宙ステーション「きぼう」から小型衛星を放出する無償プログラムがなくなり、どうしようかと思っていたときに、このプログラムの新設を知りました。 こちらの方が軌道高度が高く、実証期間を長くとれるということで、条件も適していました。主衛星がなく安全審査上の制約が少ない点も使いやすいプログラムです。
中西 実証機会の選択肢は、実はそれほど多くありません。これまでも打上げの機会を求めてインドやロシアのロケットを利用してきましたが、海外で打ち上げる場合は技術流出の防止策が必要になるなど、参加のハードルが上がってしまいます。 国内での実証プログラムはその意味でも非常に利用しやすいです。
- 同プログラムに関するこれまでのJAXAのサポートはいかがでしたか。
中西 このプログラムの担当部署が技術実証の研究開発部門だということもあり、こちらの気持ちを汲み、ともに成功させようという意識で親身に話を聞いてくださることが有難いです。
坂本 ロケット側とのインターフェース調整でのリクエストの受け入れなど、フレキシブルな対応をしてくださり助かっています。JAXAの方々も含め、全員の「思い」が集まって達成される宇宙実証であると感じています。
- 1号機の打ち上げが近づいてきましたが、現在の心境は。
中西 現在は目の前の仕事をこなすのに精一杯です。私は宇宙ミッションの経験は2回目ですが、前回は打上げ直前にようやく「本当に打ち上がるんだ」と実感が湧いてきました。おそらく今回も、その頃になって初めて実感できるのだろうと思います。
坂本 プレッシャーに押しつぶされそうな日々にもようやく慣れてきたところで、15年前に初めて大学衛星を成功させた方々の精神力は偉大だったと改めて感じています。 「IKAROSが宇宙構造物研究を大きく変えたように、OrigamiSat-1が成功したらやはり世界が変わるのだ」と信じ、先達に負けないようにと気持ちを奮い立たせています。
- 実証後の展望をお聞かせください。
坂本 世界の潮流は電化衛星に向かっていますし、太陽発電システムや有人活動拠点の建設など、今後ますますソーラーアレイを初めとする巨大構造物が必要となってくることと思います。
我々はこの実証を契機として、全電化衛星のさらに先を見据えた研究開発を進めたいと思っています。
今回、薄膜にさまざまなデバイスを載せられることが実証できれば、それをどうすれば数km級の構造へ拡大できるか、どうすれば展開構造上でロボットを動かせるかなど、次の段階に進むことができます。
2号機以降ではその過程の実証を行っていきたいと考えています。
- JAXAの革新的衛星技術実証1号機に対して、また、プログラムの今後に対しての期待をお聞かせください。
中西 今回は膜が展開すること自体のみならず、表面にさまざまなデバイスを載せた薄膜の展開技術を実証することが目的です。1号機に対しては、世界最先端の研究の成果を出せる機会ということで大いに期待しています。
2号機以降では将来の実用化につながるロボット技術の実証を行いたいとと考えています。
かつてはキューブサットをつくること自体が新しい技術でしたが、現在はそれが当然のものとなり、それで何をするかが問われるようになりました。
実証機会を最大限に利用し、これまで難しかった宇宙ロボット技術の実証を高サイクルで続けられるスキームを作って行ければと考えております。そのためにも本プログラムの末長い継続を期待しています。
坂本 宇宙開発で挑戦をしたい人たちのコミュニティづくりも大切です。実証機会が増えると、条件に合わせてさまざまな立場の人たちが宇宙開発へ参加できるようになり、新たな担い手が生まれてくることでしょう。
そのコミュニティの活性化や多様化が、研究の深まりや、宇宙技術の実用化へつながっていくでしょう。
また、インパクトのある宇宙実証が次々となされることで、小中高生、大学生たちに「宇宙は本当に面白い」と感じてもらい、どしどし研究開発コミュニティへ参加してもらいたいですね。