革新的衛星技術実証2号機 実証テーマ

クローズドループ式光ファイバジャイロを軌道上実証し、国内での安定供給を目指す

多摩川精機株式会社

慣性システム課 菅沼 嘉光 主任技師
慣性システム課 松下 智久

超小型衛星にも搭載できる低価格で高性能な国産光ファイバジャイロ「I-FOG」の軌道上実証を行う多摩川精機。安価なジャイロを提供し、国内の宇宙利用をさらに後押しすることを目的とする同社の取り組みについて、同社慣性システム課の菅沼嘉光氏、松下智久氏にお話を伺った。

- ご自身の業務内容について教えてください。

松下  現在私どもはジャイロを使った宇宙や防衛用途のシステム機器の開発に取り組んでいます。

ジャイロ(正式にはジャイロスコープ)とは角速度、つまり単位時間あたりに角度が何度変わったかを検出するセンサで、外部から信号なしに自分がどのような姿勢であるか、どの方位を向いているかを計算することができ、幅広い用途で利用されています。

もともと弊社のジャイロ事業はほとんどが防衛用途だったのですが、2011年に超小型衛星向けのIRU(慣性基準装置)を開発し、以来宇宙用ジャイロとして採用されています。

菅沼は実務レベルにおける開発のマネージメントを担当し、私はそのもとでハードウェア設計、製品の機能などの環境性能の試験を担当しています。

- 今回、革新的衛星技術実証2号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。

松下  私どもの実証テーマは「クローズドループ式光ファイバジャイロ(I-FOG)の軌道上実証」です。

I-FOGとは、制御にクローズドループ方式を使用した光ファイバジャイロで、従来弊社で生産していたオープンループ方式と比較して原理的に精度が高く、今まで以上に正確な角速度を検出することができます。また、性能を落とさずに検出範囲を広くすることも可能です。

I-FOGは弊社では比較的新しいセンサで、軌道上で使われたことはありません。小型実証衛星2号機(RAISE-2)で軌道上における動作や長時間にわたる耐久性を評価し、実際に宇宙で使用できることを実証したいと考えています。

ジャイロにも、スマートフォンに入っているような安価で小型なものから、ロケットに搭載されるような高価で高性能なものまでいろいろありますが、I-FOGはそれらの中間のグレードに該当します。このクラスのジャイロを開発・製造・販売まで一貫して実施しているメーカーは国内でも少なく、多くの場合海外製が使われています。

今回の実証で得られた成果をもとに、国内で安定供給できれば、国内の宇宙利用をさらに身近なものとして後押しできるのではないかと考えています。またI-FOGは、宇宙はもちろん、それ以外の用途でも使用可能な性能を持っていますので、量産効果を使って価格を抑え、安くて良いものを提供していきたいと思っています。

- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。

菅沼  革新プログラムに応募したのはI-FOG開発から間もない時期で、もちろんまだ宇宙での実績はありませんでした。今後の人工衛星で使用してもらうには、やはり実績が重要なファクターです。お客さまにどのようにアプローチをするか、アピールをしていくかということを考えると、こういったプログラムで軌道上での実績を積むことが、またとないアピールの材料として使えるのではないかと考え、応募しました。

地上でも放射線の試験など宇宙環境に近い試験を行うことができますが、実際に打上げられるときの振動や衝撃に耐え、宇宙空間での放射線などの環境に曝露された状態でも動作するという実績は、地上では証明しきれない複合的なところがあります。そのため、最終的にはこういったプログラムでの実証が大きなメリットとなります。

海外製ジャイロだと、納期に時間がかかるのと高価であるということが衛星開発のボトルネックになっているという話をよく聞きます。我々が国内で安定供給できれば、そういった問題は解消され、打上げまで短期間で持っていくことができると考えています。

- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えて下さい。

松下  弊社のI-FOGの試作機が完成したのは2016年。弊社のジャイロは一台一台特性を取って誤差をキャンセルするような調整をしているのですが、I-FOGは、従来生産していたオープンループ方式より目標とする性能も高かったため、従来と同じ手法では思ったように性能を引き出すことができずに苦労しました。また、思いのほか消費電力が大きいということがわかり、少しでも電流の消費を抑えるように仕様の見直しが必要で、形になるまで試行錯誤するということがありました。

社内の同部署で高い性能を要求される製品を製作している担当者に調整方法を相談したり、JAXAや製造部門の者とも何度もミーティングを重ねながら、改良を続け、これらの課題を克服してきました。

頑張っていいものを作ればその経験は後に生きてきますし、もっといいものが作れることにも繋がります。この産みの苦しみは、避けては通れない必要なことなのだと考えています。

- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。

菅沼  先ほども述べましたが、弊社は衛星搭載に向けた製品の開発は経験が浅く心配でしたが、JAXA主導で進めていただけたことでそれほど苦労することなくひとつひとつステップを踏んで開発を進めることができ、非常に助かりました。

- 革新的衛星技術実証2号機での実証後の展望についてお聞かせください。

松下  短期的にはI-FOGを用いた小型衛星向けのIRUを作りたいという目標がありますが、IRUはジャイロだけで加速度計を搭載していません。加速度計を搭載するとIMU(慣性計測装置)になって衛星の姿勢だけではなく動作も検出できるようになります。

I-FOGはもともと地球を周回する衛星に搭載する目的で作ったものですが、検出範囲を拡大し、さらに加速度計を追加してIMUに発展させることで小惑星探査機「はやぶさ」のようなミッションにも対応できるのではないかと考えており、宇宙機器向けにそういった製品の開発にも着手していきたいと思っています。

また、企業や大学が打ち上げる衛星にも大型化の傾向があると聞いていますので、大型化した衛星にも十分お使いいただけるような製品に仕上げていきたいと思います。

菅沼  I-FOGは他の分野、たとえば現在弊社が進めている自動車の自動運転などにも使われています。

自動運転に使用するためにはI-FOGレベルのセンサが必要で、スマートフォンなどに入っているMEMS(微小電気機械システム)という小さな半導体のジャイロでは耐えられません。

将来的には、車に一台、一家に一台といった形になっていくようにチャレンジしていきたいと思います。

- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。

松下  革新プログラムではJAXAと密にコンタクトを取ることができ、終始安心して開発を続けられました。このプログラムへの応募を悩んでいる方がいらっしゃいましたら、宇宙は実績が重視される分野ですので、この素晴らしいプログラムにぜひ参加していただきたいと思います。

私は弊社が宇宙機器を扱っていることは知っていましたが、思いがけずロマン溢れる分野に携わることができてとてもよかったなと思っています。宇宙は若い人にとっても憧れの分野だと思います。そういう分野でもいろいろな繋がりがあって、ワクワクしながら仕事ができるというのはうれしいですね。

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