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革新的衛星技術実証2号機 実証テーマ
膜型ダストセンサを搭載したキューブサットで宇宙塵・スペースデブリ観測を目指す
千葉工業大学
惑星探査研究センター 石丸 亮 上席研究員
宇宙空間で膜型ダストセンサを展開し、宇宙塵やスペースデブリの観測を行う千葉工大のキューブサット「ASTERISC」。高い汎用性や発展性が見込める膜型センサのメリットや、多様なミッションに対応できるバスシステムについて、同大惑星探査研究センターの上席研究員の石丸亮氏にお聞きした。
- 先生の研究内容について教えてください。
私は惑星科学が専門で、特に惑星の形成と進化、惑星の上でどのように生命が生まれたか、といったことに興味を持って研究しています。研究方法は理論・実験といろいろありますが、ここ数年は超小型衛星を用いた観測的な研究にフォーカスしています。
私が所属する千葉工業大学惑星探査研究センター(PERC)は、2012年に独自の惑星科学探査を高頻度、継続的に行うことを目的とする超小型衛星プロジェクトを立ち上げました。私はこのプロジェクトのプロジェクトマネージャをしています。
- 今回、革新的衛星技術実証2号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。
今回のミッションは「宇宙塵」の観測です。
宇宙塵が地球大気に突入すると大気が圧縮されることによる加熱で発光することがあります。それが流れ星です。
私たちのプロジェクトの1号機「S-CUBE(2015年、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟から放出)は流星を宇宙空間から観測するものでしたが、今回の2号機「ASTERISC」はそれよりももう少し小さい粒子、地球大気に突入しても効率的に減速され流星として発光しない宇宙塵を宇宙空間で観測するのが目的です。
このような宇宙塵は加熱をあまり受けず地球表面へ到達できるため、宇宙物質(有機物など)を地球に持ち込む重要なキャリアであると考えられています。ただし、このような宇宙塵は非常に小さく地上で回収するのは容易ではないため、宇宙でのその場観測が必要です。
「ASTERISC」の実証テーマは2つあります。
ひとつはまったく新しいタイプの粒子計測システム「膜型ダストセンサ」。もうひとつは国産のキューブサットバスシステムです。
膜型ダストセンサは、ポリイミドで作られた膜に圧電素子という小さなセンサを接着し、そのセンサで電気信号を読み取るというシンプルな構成です。宇宙空間を飛び交っている粒子が膜にぶつかるとその衝撃によって膜の上で「弾性波」という波が広がっていきます。その波を圧電素子が検知して圧力を電気信号に変換し、この信号を読み取ることによって粒子の衝突として検出します。
この方法だと膜全体をダストセンサ化することができ、膜を大きくするとその分、大きな面積のダストセンサを作ることができるというメリットがあります。
宇宙塵は数密度(単位体積あたりの個数)が低く、かなりまばらに宇宙空間を飛んでいるので、小さいセンサを使ったとしてもなかなか検出できません。宇宙塵の観測の難しさから、その理解は十分ではないのですが、その謎を解明するために私たちは、大面積(30cm×30cm)の膜面のセンサを実現することで、宇宙塵がどういう方向から飛来してどれくらいあるかを観測できるようにしたいと考えています。
また、このダストセンサでスペースデブリ(宇宙ごみ)も観測できるので、これまで地上からの監視では視えなかった微小デブリがどれくらい宇宙機などに影響を与えるのか(衝突するのか)の評価が可能になると考えています。
宇宙環境問題という観点からも我々のダストセンサの観測データが貢献できるのではないかと期待しています。
また、「ASTERISC」のバスシステムは、我々が1号機として開発した「S-CUBE」のノウハウをベースにさらに性能を向上させたものです。
このシステムには信頼性が求められる最重要箇所に用いる低消費電力型の堅牢なコンピュータと、消費電力は高いが高性能なコンピュータをハイブリッドで使っています。普段の運用では低消費電力で堅牢なものを、高速処理で計算したり通信を行ったりするときは消費電力は高いが高速処理できるものを使用し、キューブサットでありながら電力的にも安心、しかも機能も犠牲にしないというシステムを構築しています。
私たちは今後もっと高度なミッションをやっていきたいと考えているので、今回のバスシステムの実証を次の衛星に繋げていきたいと考えています。
- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。
膜型センサの技術は高い汎用性や発展性が見込めますが、今後売り込んでいくには軌道上での実証が必要と考え、このプログラムに応募しました。
バスシステムについても今後のミッションのために高性能化、高信頼性化を進めていたので、それらを実証して次のステップに繋げたいと思っていました。
- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。
今回の衛星は打上げ後に膜型センサを開きますが、高度400kmの国際宇宙ステーションからの放出では、大気抵抗の影響で場合によっては1年持たずに大気圏に突入してしまいます。
しかし、革新的衛星技術実証2号機の高度約560kmであれば、数年は運用できることがわかっており、技術実証だけでなく宇宙塵やデブリを観測できる期間が十分に確保できるということが非常に重要でした。
もちろん日本のロケットは成功率が高く安心できるというのも大きな理由です。
- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えて下さい。
技術の観点でいうと、こういう仕組みのセンサは今までまったくなかったので、どういう環境試験や動作試験を行えばいいのか一から考えなくてはならなかったことが非常に難しかったです。
関連する技術や物理法則を考えて試験項目を整理し、新しい試験装置や治具の開発を必要に応じて行いました。
我々のダストセンサは、膜と素子とケーブルで構成されるシンプルさが売りですが、その中には多くのノウハウが詰まっていて、他には真似できないようなものが作れたと考えています。
またコロナ禍も今回苦労したところです。今回の衛星は千葉工業大学と東北大学、関連するメーカーが一緒に開発しており、通常だと開発メンバーが一堂に会して試験をしたり、設計について話し合ったりするのですが、集まるということができなくなってしまいました。そこで、リモートで会議するだけでなく、オンラインで試験できる環境を構築し、現在もその方法で開発を進めています。
- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。
開発自体や安全審査などにおいて、スケジュール面などだけでなく細々とした技術の面でも要望に応じて柔軟に調整していただいて、非常に助かっています。
衛星の審査というと厳しいというイメージがありますが、革新的衛星技術実証グループの方は「味方」という感じで、相談できる関係性を作っていただきました。仮にできないことがあっても「ではこうしましょう」と前向きに話すことができています。そうすることで結果的に衛星の信頼性が上がることにも繋がっているのだと思います。
革新的衛星技術実証プログラムは、大学としても貴重な機会なので、今後も続けていってほしいと思います。我々は”惑星探査”研究センターなので、今後は地球周回だけではなく、月や月以遠の深宇宙の実証の機会を作っていただけると非常にありがたいですね。
- 革新的衛星技術実証2号機での実証後の展望についてお聞かせください。
この実証が成功すると、さまざまな衛星や探査機に、手軽にダストやデブリなどの粒子を観測できるシステムを付与することができます。ダストは惑星環境に普遍的に存在するものなので、私たちが開発するセンサを活かせる場が数多くあると期待しています。
また、特に今後人類が宇宙に進出していくにあたってスペースデブリという問題は避けて通れません。これからも増えていくであろうスペースデブリをモニタしていくということも重要です。そういうときに、このような安くて手軽なセンサは、使われやすいものになるのではないでしょうか。
- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。
キューブサットは現在さまざまな大学や企業などの機関が開発していますが、技術実証を掲げたものが多く、サイエンスやビジネスに繋がるようなものはまだそれほど多くないと感じています。
我々の「ASTERISC」は、技術実証に留まらず、理学の観測を行います。キューブサットの可能性を広げられるものになるのではないかと思いますので、ぜひ期待していただきたいと思います。