JAXA研究開発部門

Interview

自社で宇宙インフラを構築
サービス提供を目指す

中村 友哉

株式会社アクセルスペース
代表取締役CEO

2018年度に打ち上げる革新的衛星技術実証1号機では、実証テーマのうち、部品とコンポーネントの実証を行うため、200kg級の小型衛星「小型実証衛星1号機」を開発している。 この開発を担当しているのは、間もなく創業10年を迎える宇宙ベンチャー企業・アクセルスペース。JAXA衛星で初めて宇宙ベンチャーが受託した。同社代表取締役CEOの中村友哉氏に、開発状況や意気込みなどを聞いた。

- まず、アクセルスペース社で今まで開発してきた超小型衛星について教えてください。

最初に開発したのは、2013年に打ち上げた「WNISAT-1」(10kg)です。これは北極海の海氷観測を目的とした衛星で、北極海航路の安全な航行を支援するために作られました。 残念ながらカメラが故障し、途中で観測できなくなったのですが、後継機「WNISAT-1R」(43kg)が2017年に打ち上げられ、正常に運用中です。

また、2014年に打ち上げた「ほどよし1号機」(60kg)は、口径10cmの光学望遠鏡を搭載した地球観測衛星です。超小型衛星ながら、6.7mという地上分解能を実現していて、これまでに軌道上から4,000枚くらいの撮影を行いました。

この「ほどよし1号機」の成果を活かして、現在、「GRUS」(100kg)という衛星を開発中です。地上分解能は2.5mに向上。2018年に最初の打ち上げを行い、その後、2022年の完成に向けて衛星の数を順次増やしていき、世界中を毎日撮影できるようになる予定です。

加えて現在、2018年度打上げ予定のJAXAの革新的衛星技術実証プログラム「小型実証衛星1号機」の開発を担当しています。


©Axelspace Corporation



©Axelspace Corporation

- 今回は過去最大の衛星となりましたが、苦労はありましたか?

200kgにもなるともう「超小型衛星」ではなく、「小型衛星」の世界です。今回は我々にとって初の小型衛星となったわけですが、100kgと200kgの間には、単なる「2倍」以上の大きな差がありました。

100kgの衛星なら、移動も台車で可能なレベルです。しかし、200kgだと重いので、大型クレーンで吊り上げて移動させる必要があります。何をするにも、人と手間が余計にかかってしまい、それはコストに直結する。 衛星の作り方が大きく変わる境界のようなものが、100kgと200kgの間にあるのではないかと思います。

それに100kgまでなら自社のクリーンルームで組み立てられるのですが、200kgはもう無理。JAXAの筑波宇宙センターで組立をすることとなり、大勢のエンジニアが毎日筑波まで通うのも大変でした。

- 今回小型実証衛星1号機には7件もの実証テーマが搭載されます。何か工夫した点はありますか?

これまでの超小型衛星では、衛星システム全体を自社で開発してきましたが、今回は衛星のバス部分(構体や電源や通信など衛星の主機能)の担当でした。 各実証テーマのユーザが開発したミッション機器を搭載する形になりますので、万が一そこで異常が発生しても、衛星バス側に影響が及ばないよう様々な配慮をしました。

また、「ほどよし1号機」で開発した自動運用システムを、この衛星でも採用する予定です。インターネットから専用サイトにアクセスし、試験計画を入力すれば、自動で衛星全体の運用計画に展開して、コマンドを衛星に送信。 オペレータを介さず、利用者が直接試験を行って結果を得られるので、軌道上での実証がしやすくなると思います。

もちろん非常時は別ですが、「ほどよし1号機」は通常、このように無人で運用しています。我々はベンチャーなので、専任のオペレータを用意する余裕がないという事情もあるのですが、使いやすいものができたと自信を持っています。

- 初めてJAXAと仕事をした感想は。

JAXAと我々の開発手法はかなり違います。従来の政府衛星ではとにかく信頼性重視ですから、スピードや柔軟性、効率性を重視するベンチャーの衛星開発とは思想から違うのは当然なのですが、 その中でどう合意点を見いだすかということに、お互い苦労しています(笑)。

でも、今回初めて一緒に仕事をしてみて、JAXA流の開発手法にも、根拠があることがすごく良く分かりました。 これまでは「とにかくドキュメントの量がすごいらしい」という印象を持っていたのですが、複雑な衛星になってくると、そこまで管理しないとミスが出る。そういう確かな知見に基づいているんです。

我々は今まで、効率性を重視してドキュメントはあまり作ってきませんでしたが、あとで振り返るときに確かに役に立つ。 開発期間と価格に敏感な超小型衛星では、それをそのまま導入できるわけではないものの、JAXA流プロジェクトマネジメントの良いところは取り込んでいきたいと思っています。その点は、良い経験になりました。

- 衛星メーカーとして、小型実証衛星1号機についてはどう見ていますか?

ラーメンの「全部のせ」みたいですよね。こんなにいろんなものを実証する衛星はなかなか無いので、面白いと思います。

我々衛星メーカーは、部品やコンポーネントを買う立場なのですが、その際、宇宙での実績の有無はかなり重視します。

宇宙では、実績があっても問題が起きる場合もあるわけですから、実績がないという時点で、正直採用を躊躇してしまいます。その観点で、日本で実証の機会が定期的に提供されるのは、大きな意義があると思っています。

- 2号機以降でこのプログラムを利用してみたいですか?

現状で決まっていることは無いのですが、これからも積極的に研究開発は進めていくので、機会があればぜひ利用したいと考えています。特にコンポーネントの実証には、非常に興味があるところです。

我々の希望を言えば、2年ごとではなく、ぜひ毎年やって欲しいです。開発には数年かかるので、もし最初の採択から漏れてしまうと、次の機会は2年後。競争が激しい宇宙ビジネスでは、チャンスを逃すことになるかもしれません。 予算の都合もあるでしょうが、今後も長く、頻繁に続けてもらえれば嬉しいです。

- 今後、超小型衛星で宇宙ビジネスはどう変わりますか?

超小型衛星はもう、1つのビジネスツールとして受け入れられ始めています。我々も手がけている光学観測は、すでに次のフェーズに移行していて、どのプレイヤーが実用的なインフラを構築するのかという段階になっています。 今後も新たなビジネスツールとして、利用はますます拡大するでしょう。

超小型衛星の特徴は敷居の低さです。私が学生時代に開発に携わったキューブサットに至ってはキットまで販売されているような状況なので、お金さえあれば、気軽に作って試すことができる。 世界中でたくさんベンチャーが生まれているのは、その敷居の低さ故です。

競争は激しいですが、これはすごく良いこと。様々な試行錯誤が出て、良いものだけが残る状況になっている。自分自身で衛星を持たず、衛星画像を解析して顧客にサービスを提供するようなベンチャーが出てきたのも、ここ数年の話です。 そうした環境の中で、我々自身も常に生き残る戦略を柔軟に変更しながら対応していかなければなりません。世界のベンチャー企業や大企業、JAXAや大学、研究機関との協力・競争を通じて、微力ながら宇宙産業全体を盛り上げていけたらと思っています。

- 最後に抱負を一言お願いします。

今回の小型実証衛星1号機は、ベンチャーがJAXA衛星を受託した初めての案件なので、絶対に成功させたいですね。 これがうまくいけば、さらにJAXAとベンチャーの連携が強化されることで、画期的なプロジェクトが出てくるかもしれない。そういう流れを生み出す、起爆剤にしたいと思っています。

我々は現在、自社で宇宙インフラを構築し、サービスを提供することを目指しています。これまでは1機1機苦労しながら作ってきましたが、今後は衛星の量産という、次のステージに進むことになる。 世界に打って出て勝負するためにも、JAXAとの関係は一層強化していきたいと考えています。