革新的衛星技術実証1号機 実証テーマ

世界初、人工流れ星の実証実験 新たな宇宙利用ビジネスの創出へ

株式会社 ALE

岡島 礼奈   代表取締役
蒲池 康 チーフエンジニア

衛星を用いて人工的に流れ星を創り出し、エンターテイメントとサイエンスの領域で民間宇宙事業に取り組む株式会社ALE。 代表取締役の岡島礼奈さんとチーフエンジニアの蒲池康さんに、革新的衛星技術実証プログラムに応募された目的、実証後の展望、宇宙産業の魅力などを伺った。

- 御社の事業内容について教えてください。

岡島  人工的に流れ星を流すための人工衛星を開発しています。その根底にあるビジョンは、人工流れ星をエンターテイメントとして楽しんでいただく一方、壮大な科学実験として基礎科学や科学技術の発展に貢献することです。 つまり、サイエンスとエンターテイメントの両立を目指して、人工流れ星事業に取り組んでいます。

- 応募された実証テーマの内容や目標とされる成果を教えてください。

岡島  世界初となる人工衛星を用いた人工流れ星の実証実験を行います。目標の第一歩としては、新しい宇宙利用であるエンターテイメント分野で人工流れ星がビジネス化できるかどうかを検証することです。 そのための技術的な実証として、流れ星の素である流れ星の粒を高い精度で安全に放出できること、そして地上から流れ星が確認できることを目標としています。

- 人工流れ星を発生させるメカニズムとは?

蒲池  天然の流れ星は宇宙空間の塵が大気圏に突入し、加熱されることで発光します。同じことを人工衛星から放出する粒を使って再現するのが人工流れ星です。強く加熱されるための条件として、粒の形や突入角度などがあります。 また明るく発光させるためにはその他として、粒の材料がとても重要です。そのため、さまざまな理論や実験に基づいて最も明るくなる材料を選定しています。
弊社の人工衛星は進行方向後方に高速で粒を放出し、地球を約1/6周してから狙った地域上空の大気圏に正確に突入させます。地上では直径約200㎞の範囲で、5~10秒間程度の発光を観測できるという計算です。 宇宙機のリエントリーと同じように安全かつ正確な軌道制御を行います。

- 開発の経緯について教えてください。

岡島  私たちは衛星技術に関しては素人でしたので、今回同じ革新プログラムに参加されている東北大学の桒原先生をはじめ、大学の先生からの技術協力を得ながら進めてきました。 桒原先生には、とてもチャレンジングなことなので一緒にやりたいとおっしゃっていただきました。桒原先生が衛星のバス部を、弊社がミッション部を、という役割分担で開発を進めています。

- 基礎科学や科学技術への貢献というのは、具体的にはどのようなことですか?

岡島  流れ星が光る60~80km上空の高層大気と呼ばれる領域は、気球を飛ばすには高すぎるし、人工衛星では低すぎて観測できないという「研究の空白地域」と言われています。 そこに私たちが人工流れ星を発生させて、その様子を観測することで、高層大気の研究に役立てるというのが一つです。
また、大気との反応から宇宙機の材料設計に関するデータも得られます。これは、宇宙機の再突入技術の研究にも役立つと考えています。
さらに、流れ星そのものの研究にも貢献できると考えています。たとえば、人工流れ星の粒に有機物を混ぜ、天然のものと同じ観測データが得られたら、宇宙から有機物が飛来していることの有力な証拠になるかもしれない。 つまり、生命の起源の謎に近づけるかもしれないということです。

- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。

岡島  新しい技術実証のための貴重な打上げ機会をいただけるということで応募しました。また、期限が決まっていることも開発を先に進めるための動機づけになると思いました。

- JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。

蒲池  開発において一番苦労したのが安全審査でした。今まで誰もやったことのないミッションを安全に行うために何をやらねばならないかをJAXAが一緒に考えてくれたことは大変心強かったです。 JAXAとの議論を経ることで、私たちの計画も洗練されてきたと感じています。

- そもそも宇宙事業に関わられたきっかけは何でしょうか? また、宇宙産業のどのようなところに魅力を感じますか?

蒲池  私はプラズマや材料系が専門で、その技術を流れ星にも活かせるということからこの仕事に関わることになりました。地上には数多くのエンジニアリング技術がありますが、新しい展開先を見出すのが困難な状況となっています。 新しい技術を思う存分試せるというところで、宇宙産業は魅力があると思います。

岡島  私はバックグラウンドが天文学なので、流れ星を人工的に発生させたいと思っていました。今は宇宙分野全般に興味があり、他の宇宙事業もやってみたいと考えています。 ただ、宇宙技術というのは信頼性基準の高さから宇宙で実証されたものでないと搭載されにくいため、意外と技術革新が進んでいないと感じました。この実証プログラムは、そういう意味で新陳代謝を早めるのではないかと思います。
また、弊社には蒲池を含めて、宇宙関係は初めてというメンバーが何人かいて、一緒にものづくりをしています。そうやって他の分野や業種から人が入ってくることで、宇宙産業が活性化していけばますます面白くなるのではないかと思います。

- 実証後の展望について教えてください。

岡島  今回、人工流れ星の実証ができれば、人工流れ星の事業化への道は難しくないと思っています。私たちが目指しているのは、エンターテイメントとして多様な演出をすることです。 たとえば、複数の衛星から流れ星を流して空にらせんを描くなど、人工でしかできない面白い見せ方を工夫したいと思います。
それと、みんなで流れ星を楽しむという文化を創りたいですね。それをシティプロモーションにつなげたり、人を移動させる仕掛けとして使ったり、さまざまな事業の可能性を考えていきたいです。

蒲池  流れ星を光らせることが実証できたら、次の課題はそれをさらに明るくすることと、光のバリエーションを増やすことです。 流れ星事業が成功すればフォロワーも増えてくると思うので、誰にも真似できないような明るさや光らせ方の技術を高めていきたいですね。

- 打上げに向けた期待と、今後のプログラムへの期待をお聞かせください。

岡島  打上げに向けてはワクワクが半分、心配が半分という感じですね。革新プログラムに対しては、こうした前例のないミッションを受け入れてくださる懐の深さがあると思うので、この貴重な打上げ資源を使って、多くの人が宇宙産業にトライするような状況になってほしいと思います。

蒲池  民間企業が宇宙産業に参入しやすくなるようなアシストがあれば、もっと面白いことができると思います。たとえば衛星のバス機器は用意されているとか、軌道が自在に選べるとか。JAXAの技術力なら可能だと思うので、さらなるプログラムの充実を期待しています。

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