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革新的衛星技術実証2号機 実証テーマ
キューブサットによるガンマ線バーストの速報システムの実証実験を行う
青山学院大学
理工学部 物理科学科 坂本 貴紀 教授
いつどこで起こるかわからないガンマ線バーストなどの突発天体をすぐに観測するには、発生を速報するシステムが不可欠。青山学院大学のキューブサット「ARICA」は民間の衛星通信を利用し、突発天体の速報システムの実証実験を行う。この通信システムは衛星との常時通信にも使えるという。「ARICA」を開発している同大理工学部の坂本貴紀教授にお話を伺った。
- 先生の研究内容について教えてください。
私はガンマ線バーストという天体現象を研究しています。
ガンマ線バーストとは重い星が一生を終えて超新星爆発を起こしブラックホールになる瞬間、非常に速い速度で飛び出した物質からガンマ線が放射される現象です。2017年、中性子星同士の衝突による重力波が初めて検出された際、直後にガンマ線バーストも観測されました。
つまりガンマ線バーストは、ブラックホールの誕生や重力波が発生するような宇宙のダイナミックな姿を反映した天体現象であり、地上の実験室等では決して再現できないスケールで起こっている物理現象です。
極限での物理を知るという意味からも意義ある研究対象だと考え、研究を進めています。
- 今回、革新的衛星技術実証2号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。
ガンマ線バーストをはじめとする突発天体(急激な増光、減光など、突発的に激しい光度変化を起こす天体)の速報システムの実証が、今回のテーマです。
ガンマ線バーストは、ガンマ線という波長で、一瞬明るく輝く天体ですが、ガンマ線は地球の大気で吸収されてしまうため、地上では観測できません。観測するには観測装置を衛星に搭載して大気圏外で観測することが必須です。
しかし大きな問題は、ガンマ線バーストがいつどこで起こるのかわからないということです。ガンマ線バーストが発生したときに「ガンマ線バーストを見つけた」という情報をどのように地上に速報するかが重要なのです。
多くの科学衛星は高度500~600kmを周回し、約90分で地球を1周します。
たとえば大学の屋上に衛星と通信するアンテナを設置したとすると、衛星が地平線から上がってきてキャンパスの上を通り、また地平線の下に消えてしまうまでほぼ10分くらいです。残りの80分間は衛星と通信ができない状態で、ガンマ線バーストを発見したとしても、すぐに地上に伝えることはできません。
そこで我々が開発している速報実証衛星「ARICA」というキューブサットは、民間の衛星通信端末を2基搭載してガンマ線バーストの速報システムの実証実験を行います。
またこれらの衛星通信端末を衛星に搭載することで、常時衛星とコンタクトできるということになりますので、たとえば衛星の健康状態を常に確認することができたり、衛星に緊急事態が発生したときにも、即座に衛星にコマンドを送って対処したりすることが可能になるという別の使い方もできるのではないかと思います。
- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。
2018年度の日本学術振興会の科学研究費(科研費)に「ARICA」で実現しようとしている研究内容を応募しました。それが採択され、その時期に共同研究者の方から「革新的衛星技術実証2号機のテーマ募集がある」と教えていただきました。
私が科研費で構想を練っていたぴったりのタイミングで実証テーマの公募があったのでさっそく応募したというのがいちばん大きな動機です。
- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。
私の研究室は理学系なので、衛星のバスシステムの開発は行わず、衛星で実証したい速報システムに集中できるような開発体制を組みました。特に衛星の筐体、太陽電池パネル、バッテリ、バッテリを経由して衛星全体を制御する装置であるEPS(Electrical Power Subsystem電源系)といった機器は、宇宙での利用実績のある民生品を購入して使用しています。
予想外に大変だったことは、安全審査の対応です。JAXAのプロジェクトということで、衛星を打ち上げるためには安全審査等の書類関係が衛星開発側に要求されます。我々は民間の企業から宇宙での使用実績があるものを購入しているので、それらは「宇宙品」として安全審査がすぐに通るかと思いましたが、そうではなく、バッテリのメーカー等にお願いして試験データを出してもらうなど、思った以上に大変でした。
また2020年度初めにはコロナ禍で1か月ほど大学に入ることができなくなりました。その後幸いなことに入構禁止措置は緩和されましたが、現在でも「ARICA」の開発に携わっている多くの学生は、毎日大学に来て研究や開発をするということが難しく、週に数回大学に来て実験室でしかできない研究や開発を行って、大学に来ない日はリモートでできることを進めてもらっています。
- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。
非常に柔軟に対応していただいており、衛星の開発としては非常にやりやすいというのが率直な感想です。
なお、我々は民間衛星の送信機を衛星に組み込んで打ち上げるのですが、それを使用するには総務省への免許申請が必要で苦労しました。このような面でもサポートしていただければと思いました。
- 革新的衛星技術実証2号機での実証後の展望についてお聞かせください。
「ARICA」の突発天体の速報システムの実証ができると、JAXAの小型衛星の公募ミッション候補である日本独自のガンマ線バースト探査衛星「HiZ-GUNDAM (High-z Gamma-ray bursts for Unraveling the Dark Ages Mission)」への利用の道が開かれます。
「HiZ-GUNDAM」は、まだ公募ミッションの候補のひとつですが、2020年代の終わりの打ち上げを目指して検討開発を進めています。「ARICA」で培ったノウハウはそのまま「HiZ-GUNDAM」の速報システムとして活かすことができるので、「ARICA」の実証成果は「HiZ-GUNDAM」成功のために非常に重要なものになるでしょう。
日本はまだガンマ線バースト観測衛星は打ち上げていません。現在ガンマ線バーストの研究をリードしているのはNASAの「The Neil Gehrels Swift Observatory」という衛星ですが、ぜひ日本独自の衛星を打ち上げて、若い人たちに研究の道を拓いていきたいと思います。「ARICA」はその道しるべとなるプロジェクトのひとつだと思っています。
- 最後にJAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。
我々が開発している「ARICA」は、青山学院大学の学生が主体となって開発を進めている衛星です。
大学の一研究室で衛星の開発が行われ、さらにその衛星が打ち上がり、自分たちが開発した衛星からのデータが見られるということは、宇宙を担う人材を教育するという面からも非常に大きな意味があります。
宇宙大好きな学生が一生懸命「ARICA」を開発している様子は、「ARICA」の公式ツイッターhttps://twitter.com/arica_agu で見ることができますので、ぜひフォローしていただき、「ARICA」を応援していただければと思います。