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革新的衛星技術実証1号機 実証テーマ
「宇宙開発ビギナー」の宇宙業界参入のモデルケースにしたい
慶應義塾大学 大学院 システムデザイン・マネジメント研究科
平松 崇 特任講師
これまで衛星を作った事も打ち上げた事もない新興国の人々も、すでに軌道上実績のある「衛星バス」を採用することで、宇宙開発への参入のハードルが低くなる。 今回ベトナムと日本が進めてきた超小型衛星開発プロジェクトについて、実質的なまとめ役である慶應義塾大学の平松特任講師にお聞きした。
- 平松先生の研究内容について教えてください。
私が所属するシステムデザイン・マネジメント研究科は、「科学技術から国際問題にわたる、あらゆる問題に対して、全体を俯瞰してどのようにアプローチして問題を解決していけばよいのか」について研究しています。 その中で私は、宇宙を対象に総合的なデザインを考えるという研究をしています。 今回は、超小型の人工衛星を作るというテーマを通じて、衛星を作る人、利用する人を育成して、さらに打ち上げ後に得られた成果をどのように社会的な価値に還元していくか、といった全体的なデザインを行ってきました。
- 今回の「海外新興国への衛星開発教育支援により衛星利用及び海外市場を拡大するための地球観測マイクロ衛星の提案」とは、どのようなものでしょうか。
宇宙に興味はあるが、衛星を作った経験がない、衛星を打ち上げた経験がないという新興国の人々に、低コストでその機会を提供するプロジェクトです。
これまで宇宙開発に参入するためには、高価な大型衛星を購入・運用してデータを得なければなりませんでした。
近年、キューブサットやマイクロサットなど、従来の衛星に比べ安価な小型衛星が登場してきたことで、衛星を持ちたい国などから、衛星を作る技術や持続して運用していく手順などを含め、人材を育成してほしいという要望が出てきました。
そこで今回は、日本とベトナムが協力して、50kg級の超小型衛星を作り、利用に繋げるという実証プロジェクトを行うことになりました。
具体的には、2013年から4年間、ベトナム国家宇宙センターの若手職員36名を日本の5大学(北海道大学、東北大学、東京大学、九州工業大学、慶応義塾大学)に修士課程の学生として受け入れ、宇宙教育を行いながら、共同開発を進めてきました。
衛星の基本性能、主構造はゼロベースから設計するのではなく、内閣府最先端研究開発支援プログラム「ほどよしプロジェクト」で開発され、すでに4回軌道上で正常動作実績のある「ほどよしバス」を採用することで、衛星技術の習得や開発のハードルを下げています。
これにより衛星バス開発にあまり重点を置かず、新しいミッションの開発に注力できることも大きなメリットです。
今回の衛星では、
- 海洋の色情報から海中に含まれる植物プランクトン由来のクロロフィル-aや溶存有機物などの物質や粒子の量を測定し、ベトナムの漁業・養殖業の発展に貢献する「海色リモートセンシング」
- 地上の各地に設置したフィールドセンサーから収集した環境データをUHFバンドで衛星に送信し、蓄積したデータを地上局にダウンリングすることで、遠隔地の環境情報の取得・利用を可能にする「ストア&フォアード」
などのミッションを搭載します。
- 他にもある実証機会の中から革新的衛星技術実証プログラムへの応募を決められたのはなぜでしょうか。
当初、我々のプロジェクトで打上げ実績のあるH-IIAロケット相乗りを想定して衛星の開発を進めていました。しかし、同プログラムの公募の目的のひとつとして、 「新規の民間企業等参入のため、定期的な相乗り打ち上げ機会の確保によりハードルを下げることで、宇宙利用拡大を促進する。これにより新規参入する民間企業等との相互利用・連携が進み、新たなイノベーション創出にも繋がる」 とあり、これが、我々の推進してきたベトナムとの共同研究と親和性が高いと思ったので応募を決意しました。
- 同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがでしたか?
H-IIAロケットからイプシロンロケットへ変更したことで、新しい安全要求を満たすように設計変更しなければなりませんでしたが、大変手厚くサポートして頂いて助かっています。
- 1号機の打上げが近づいてきましたが、現在のご心境をお聞かせください。
打上げはもちろん、そこからが本番だと思っています。ベトナム人学生(若手職員)の研修は2017年9月で終了し、全員いったん帰国しました。1号機打上げ前に、初期運用の準備や運用訓練のため、一部が再度来日します。 その後、打上げと打上げ後のデータ取得まで、初期運用は日本でサポートも含めて行いますが、一段落したらベトナムに運用の母体を引き取ってもらいます。向こうの地上局を使って自立的に運用してもらうよう、シフトしていく予定です。 そして、将来的には自分たちで新規の衛星開発を行えるようになることが目標です。
- 今後の展望についてお聞かせください。
今回、参加したベトナムの若手職員は衛星という存在は知っていても、衛星に触ったこともなければ、大学で研究してきたわけでもありません。
そういう「宇宙開発ビギナー」が、50kg級の衛星の開発・打上げ運用に成功すれば、同様の枠組みを他の新興国や民間企業にも適用することができます。
また、利用エリアがアジア、太平洋、ヨーロッパ、アフリカと広がっていけば、ビジネスチャンスにもつながり、新規参入する企業へのモチベーションにもつながることが期待できます。
これをモデルケースとして、今後類似の海外支援プロジェクトの展開につながればと思っています。
すでにカザフスタンやタイ、UAE、ルワンダといった国々が興味を示してくれています。また、キューブサットなどでも、「ほどよし」のバス技術を使って開発を行い、さらなる利用の拡大を考えていきたいと思っています。
この広がりは、日本の宇宙産業の活性化にも寄与するものとなると思います。
- このJAXAのプログラムへの今後の期待をお聞かせください。
日本はアメリカや中国などと比べ、小型衛星を作る技術などは優れていますが、打上げの機会が少ないことが課題でした。 このプログラムを活用することで、いまは埋もれているすばらしい技術を宇宙に送り出すことができ、それが日本の企業、産業界の活性化にもつながると考えられます。 今後も多くの研究者や企業に、ぜひ積極的に参加して頂きたいと思います。