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革新的衛星技術実証1号機 実証テーマ
革新的な低コスト・低毒の推進システムで世界の宇宙産業に切り込む
一般財団法人 宇宙システム開発利用推進機構
今井 孝司 事務管理本部長 兼 宇宙産業本部長
岡 範全 研究開発本部システム開発部 担当部長
宇宙機の推進システムの推進薬ヒドラジンは毒性が高く、扱いにくいという課題があった。これに対し宇宙システム開発利用推進機構は低毒性で扱いやすい「グリーンプロペラント推進系」の開発に着手。 低コストでヒドラジンを上回る性能を期待できる、画期的な推進システムをつくり上げた。この推進系の早期の宇宙実証を望む同機構の今井氏、岡氏に、実証プログラムへの期待をお話し頂いた。
- 宇宙システム開発利用推進機構で進めているプロジェクトはどのようなものですか。
岡 我々は現在、経済産業省の監督のもとに「宇宙環境信頼性実証システム(SERVIS)」の研究開発を進めています。
これは宇宙機器等の低コスト化、短納期化を実現し、日本における宇宙開発利用の産業化の促進と、国際競争力の強化を図るものです
具体的には、日本が得意とする民生部品・技術を宇宙で使用するために、これらに地上で模擬試験を行って信頼性を評価します。更にこれらの民生部品・技術を使った機器や衛星をつくり、宇宙実証を行います。
それによって初めて、民生部品・技術を用いた機器や衛星が世界市場で競争力をもったものとなり、宇宙産業の中で活用してもらえるものとなるわけです。
そのように実証を行うと共に、民生部品・技術を宇宙機器に採用するためのガイドライン、データベースの構築・提供を並行して進めています。
今井 最近は超小型衛星販売の勉強会を催し、そこでの議論を反映した宇宙用コンポーネント等を海外の展示会のジャパンブースに出品するなど、海外に対しても情報発信や情報収集を積極的に行っています。 また、超小型衛星のコンポーネント販売に関するウェブサイトも構築しました。現在は試行段階ですが、平成30年度からは事業化し、最終的には低コストで短納期のコンポーネントを国内外に販売していく予定です。
- 今回実証する「グリーンプロペラント推進系(GPRCS)」はどのようなものですか。
岡 「GPRCS」とは「Green Propellant Reaction Control System」のことです。ロケットや衛星などにはガスを噴射して推力を得るスラスタ(推進システム)が取り付けられており、これまでは衛星には、主にヒドラジンという推進薬が用いられてきました。
ヒドラジンは発がん性がありまた毒性も高く、衛星に充填するためには特別な設備が必要であるなど、非常に取り扱いにくいものです。
そこで我々が着目したのが、毒性の低い推進薬「グリーンプロペラント(GP)」です。低毒性なので特殊な設備や服装が不要で扱いやすく低コストとなるうえ、最終的にはヒドラジンより高い性能も期待できます。
このGPを用いて構成した推進系が「GPRCS」で、新しい推進系として非常に期待されています。
- 本プログラムへの応募動機と、期待する成果は。
岡 宇宙機器の場合、いくら高機能のコンポーネントをつくり地上で性能が証明されても、それだけでは実用化できません。宇宙実証によって実際に宇宙で使えることを証明しなければ評価されないのです。 これまでは我々自身で衛星を2回打上げて実証を行ってきましたが、現時点で3号機の開発は具体化していないため、「GPRCS」の開発が終わるタイミングで打上げられるこの実証機会を活用させていただくことにしました。
今井 少しでも早く「GPRCS」を宇宙で実証したいと考えていたので、経済産業省とも相談して応募しました。これが実証されることで、「GPRCS」の開発メーカーは、いよいよ次の販売戦略の段階に移れると期待しています。
- 他の実証機会もある中で、今回のプログラムを選んだ理由はどのようなものでしょうか。
今井 海外の衛星やロケットを活用した実証の機会もありますが、サイズや打上げのタイミングとして、今回のプログラムが最適だと判断しました。
岡 JAXAの他の機会は、コンポーネントを単独で実証できるものではありません。また海外の実証機会は適切なプログラムを探すのも大変ですし、コストも高く、事務的・法的な手続きも煩雑です。その面でも今回のプログラムが適していました。
- これまでのJAXAのサポートはいかがでしたか。
岡 「GPRCS」は推進系なので噴射をします。すると「GPRCS」を載せた衛星は加速し、場合によってはひっくり返ることもあります。そのようなリスクのある装置を搭載する場合、インターフェイスの調整は非常に難しい課題となります。
そのような調整のための議論をお互い時間をかけて行いましたが、その過程では我々にとってもこれまでにない刺激や発見がありました。
また、GPRCSは毒性の低さが特徴なので従来の高い毒性を前提とした安全基準を緩和できるため、そのことを理解していただくのに苦労しました。そのようにJAXA側とは各段階で密な議論を行い、調整をしてきたわけです。
あらゆる段階におけるJAXAの大きなサポートによってここまで仕上げることができ、感謝しています。
- 1号機の打上げが近づいてきました。現在のご心境は。
岡 「GPRCS」はすでにさまざまな調整を済ませ、最後の仕上げ段階にあります。「GPRCS」は軌道上で衛星に外乱を加えることになるので、少しずつ噴射を行い、状況を確認しながら、段階的に最終的な噴射量まで進めていく予定です。 とにかく今は早くその実証を行いたい気持ちです。ぜひ予定どおり打上げて頂きたいと思っています。
今井 地上で開発したものが無事に打上げられるか、打上げられた後は、きちんと電源が入るか。それから、機器はきちんと機能し、想定どおりのデータは取れているか。そのように心配は各段階であります。 データが取れていたら、それは次の事業に展開できるようなものになっているかも気になります。私も早くそれらを実証したいですね。
- 実証後の展望をお聞かせください。
今井 今回はスラスタ1本の搭載となりましたが、将来的には装置の事業化・販売を目指しています。その際には、スラスタ1本ずつ販売するのか、複数セットにするのか、あるいはバルブ等の他の構成要素もセットにするのかなど、さまざまな扱いが考えられます。 今回実証されたことをもとに適切な販売戦略を練り、実績をアピールして販売につなげ、この「GPRCS」が世界の宇宙産業の一角を担っていけるようになりたいと願っています。
- JAXAの革新的衛星技術実証プログラムの今後に対する期待をお聞かせください。
岡 革新的衛星技術実証プログラムは、小型衛星分野の技術を維持・発展させ、国際競争力を確保していくときに非常に重要な役割を果たすと思います。 特に、産業面の国際競争力を目的とする実証機会はこれまでにJAXAにはなく、開発メーカーにとっても非常に有用なものですので、将来にわたって継続していただくことを期待しています。
今井 今回の実証をベースに、我々はさらなる小型化や、異なるアイデアを用いた新しい製品開発を行っていき、メーカーの方では商品のカタログづくりの段階に入っていきます。 そのようにこのプログラムは商品化の前段階として重要な機会であり、日本の宇宙産業の発展に大きな意義のあるものですので、2号機、3号機の打上げも確実に実施していただけることを希望しています。