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革新的衛星技術実証1号機 実証テーマ
超小型衛星のスタンダード機器を目指して 超小型・省電力GPS受信機の宇宙実証
中部大学 工学部 宇宙航空理工学科
海老沼 拓史 准教授
キューブサットや超小型衛星による宇宙利用への期待が高まる中、小型で安価なデバイスの供給が求められている。 切手サイズの超小型で低消費電力の衛星用GPS受信機を開発した中部大学の海老沼拓史准教授に、開発の経緯や実証テーマの内容、今後の展望について聞いた。
- 海老沼先生の研究内容を教えてください。
専門は人工衛星の位置や運動を特定する軌道力学です。元々は航空機の自動制御を学びたくて米国に留学したのですが、当時GPSが一般的に認知され始めたタイミングだったことから、
たまたま人工衛星用のGPS受信機の開発に携わることになりました。
以来、人工衛星のためのナビゲーションシステムをメインに研究しています。
- 今回の実証テーマの内容を教えてください。
人工衛星用GPS受信機は、当初は大型衛星用でかなり大きなものでしたが、カーナビ用GPS受信機を転用することで小型化へと開発が進められてきました。
私も名刺大の受信機を開発したのですが、ターゲットとするキューブサットに搭載するとなると、さらに小型化しないといけません。また、GPSというのは基本的に動いている間は位置を知らせるために常時オンにしておく必要があります。
そこで、最新のアーキテクチャをベースに、切手サイズの超小型・省電力GPS受信機「Firefly」を開発しました。
今回は小型実証衛星1号機に、この「Firefly」にアンテナを一体化させた「Fireant」を搭載し、宇宙環境における動作状況を確認します。
- 実証プログラムに応募された理由は何ですか?
実は「Firefly」はすでに商品化されていて、JAXAのロケットや超小型衛星「EGG」などにも搭載されています。ただし、あくまでもGPS受信機としての実利用であり、試験データを取ることが目的ではありません。
また、必要なときだけ位置が確認できればいいので、それ以外は電源オフにしています。つまり、断続的な運用というわけです。
新規開発した「Fireant」で軌道上実証を行い、かつ連続運用のデータを取得したい。それによって、どれくらい位置情報の精度が出るのか検証できますし、放射線による誤作動や影響についても地上試験との比較検証ができ、
今後の利用拡大につながるデータが得られると期待しています。
GPSというのはサブシステムなので、それ自体をメインミッションとして実証する機会は滅多にありません。今回の実証プログラムでは長期間の運用試験ができるということで応募しました。
- 小型化するにあたってのネックや開発の苦労はありましたか?
技術的な面では、量産されている民生品を使って、なるべくハードウェアはいじらずにソフトウェアの機能だけを変えることで安価で小型の受信機を開発できました。
ただ、宇宙用の受信機をつくっても、メーカーにとってはあまり利益が出るものではないので、パートナー探しに苦労しました。
また、地上用GPSと大きく異なる点は、対象物の移動するスピードが速いことです。秒速7kmで動く人工衛星の位置を正確に捉えるためには、ドップラー効果による影響を考慮しなければなりません。
10Gから20Gの重力加速度で打ち上げられるロケットについても同様です。そうした速度と加速度への対応が、宇宙用GPSシステムの開発で難しいところです。
- JAXAの対応はいかがだったでしょうか?
「Fireant」はキューブサットに搭載できるよう、システムとして非常に単純な設計になっているので、今回の搭載テーマの中では、サイズ・スペックとも小規模な実証だと思います。 でも、大がかりな実証テーマがたくさんある中で、サイズやスペックに関係なく、メインミッションの一つとして衛星のリソースを割いていただけるというのは、とてもありがたく思っています。
- 実証後の展望について教えてください。
今回、長期のフライトレコードによって宇宙環境で連続運用できることが確認できれば、製品への信頼性が高まります。「Fireant」は、軌道上で電源を入れてから1分で測位できるという、たいへん便利なデバイスです。
できれば、国内外のキューブサット全部に標準搭載してもらえるようになるとうれしいですね。
特に私がおすすめしたいのは、大学の研究室でつくるキューブサットへの実装です。科学ミッションに使えるほどの精度はないですが、学生たちに気軽に使ってもらうことで、人工衛星の軌道推定に興味を持つきっかけにもなってくれたらありがたいです。
- 1号機の打上げに向けた期待と、今後の実証プログラムに対する期待をお聞かせください。
これほど小さなデバイスをメインミッションの一つとして扱っていただいたことに感謝しています。まずは打上げが確実に成功すること、そしてGPS受信機が正常に動いてくれることを祈っています。 今回の実証で長期間の軌道上での動作が証明されたら、次の打上げ機会には衛星のバス機器として使っていただけることを期待しています。