革新的衛星技術実証2号機 実証テーマ

キューブサット用の低消費電力・高性能なオンボードコンピュータの軌道実証を成功させ、低価格化と信頼性を両立させる

明星電気株式会社

取締役 兼 執行役員 谷本和夫

キューブサットの心臓部として需要が期待されるOBC(オンボードコンピュータ)。明星電気は、民生品を利用した安価で高性能なOBCの開発、軌道実証を行い、海外市場での展開も視野に製品化を目指す。同社の谷本和夫氏に開発目標や今後の展望について伺った。

- ご自身の業務内容について教えてください。

私は、もともと赤外線天文学の観測機器の開発からスタートし、その後は衛星の観測機器の開発に長く従事していました。

現在は、欧州宇宙機関(ESA)の観測機器や、ESAの木星氷衛星探査機「JUICE」の観測機器の開発など、海外の宇宙機関との交渉も含めプロジェクトマネージャ的な仕事をしていますが、過去には国際水星探査計画「BepiColombo」にも従事していました。

また、新たにスタートしたESAの二重小惑星探査計画「Hera」に搭載される機器開発のアドバイザーや技術的な調整役なども担当しています。

- 今回、革新的衛星技術実証2号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。

今後、キューブサットに使用される機器としていっそうの需要が期待されるのが、OBC(オンボードコンピュータ)です。OBCは衛星にとって心臓部というべきもので、弊社では宇宙用の部品ではなく民生品を使った安価で高性能なものを作ろうとしています。

OBCに関しては国内のベンチャー企業、これから宇宙産業に進出する大手メーカーの宇宙機用として需要が高まっていますが、海外でも使ってもらうためには、まず宇宙での実証実績が問われます。それに応えるためにも、ぜひ弊社のOBCを宇宙実証する機会を得たかったのです。

今回は、ベトナム国家宇宙センター(VNSC)との共同研究の下、「NanoDragon(ナノドラゴン)」というキューブサットに弊社のOBCを搭載して実証することになりました。

弊社はコンセプトとして「最先端のCOTS(Commercial Off-The-Shelf 民生品)で、安価・高性能の機器を作る」ということに力を入れています。弊社が得意としている「宇宙搭載化技術」を活かし、「民生品を使っていても宇宙で安心して使用できる信頼性の高い機器を安価で提供できる」という強みを伸ばしてビジネスを広げていきたいと考えています。

- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。

弊社は2012年、「WE WISH」という1Uクラスの自社製キューブサットを国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟から放出したことがありますが、ISSは有人施設ですから安全面等で衛星の放出に制約があることも理解しています。またH-IIAロケットにおける超小型衛星相乗り機会によって、大学などの研究機関や民間企業による小型衛星の打上げと利用が増えてきていることもわかっていますが、H-IIAロケットの相乗り機会はこれまで50kg級衛星や1Uキューブサットを対象としています。

そんな中で、やはり3Uクラスのキューブサットの実証に向いているのは、革新衛星技術実証プログラムではないかと感じていたためです。

※U(ユニット)… キューブサットの大きさを表す単位で、1Uは10cm×10cm×10cmの立方体、3Uは30cm×10cm×10cmの直方体の衛星を指す。

- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。

OBCはただ単に計算すればいいというわけではなく、国内外のいろいろなメーカーの機器のインタフェースに対応できる必要があります。

苦労したのは、OBCが接続できるようにするために、海外のさまざまなメーカーがどんなインタフェースを使用しているのかを調べ、適合させなければならなかったことです。今後、海外でOBCを販売するにあたってもインタフェースを変更せずに販売できれば低コスト化に繋がりますので、一所懸命取り組みました。

もうひとつは、改めて感じた海外との文化の違いです。海外メーカーと付き合う際には、どうしてもその国の考え方、企業の考え方が違うという部分が出てきます。それを克服するのが一つの大きな課題でした。

- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。

弊社の機器は、革新的衛星技術実証1号機を打ち上げたイプシロンロケット4号機、小型実証衛星1号機(RAPIS-1)にも搭載されていますが、今回は、1号機に参加したとき以上にきめ細かいサポートをしていただきました。

具体的には開発の途中でレビューの場を作っていただいたり、間違った方向に進んでいないかどうか、予定どおり作業が進んでいるかどうか、困ったことがないかなどについて定期的なミーティングの場を設けていただいたりしました。1号機より2号機のサポートは改善されていて、我々としては後戻りすることのない円滑な作業ができたということで感謝しています。

- 革新的衛星技術実証2号機での実証後の展望についてお聞かせください。

すでに国内のベンチャー企業、これから宇宙産業に参入してくる大手企業から弊社のOBCを使いたいという依頼がきており、現在それらを製作しています。国内に関しては販売が始まりかけていますが、これからは海外市場も狙って販路を伸ばしていきたいと考えています。

毎年アメリカで開かれている世界最大の小型衛星の国際会議Small Satellite Conferenceや、ヨーロッパで開かれる4S Symposium(Small Satellites Systems and Services Symposium)という展示会・発表会があるのですが、弊社はそこに毎年出展していますので、宇宙での実証後は、そういった場を活用して販売を加速していきたいと考えています。

今後は地球観測衛星から深宇宙探査衛星まで応用範囲を広げていこうと考えています。

- 最後にJAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。

宇宙に進出したいというお考えの企業や研究機関の方にとっては、その気持ちと熱意があれば宇宙はけっして遠くない存在だと思います。そのような方にはぜひ革新的衛星技術実証プログラムに応募し、チャレンジしてほしいということをお伝えしたいと思います。

» 高機能OBC実証衛星 NanoDragon

Interview 1 1号機に関わる人々