革新的衛星技術実証3号機 実証テーマ

超高精度姿勢制御と指向性アンテナを用いた海洋観測データ収集技術の実証を行う

米子工業高等専門学校

総合工学科(情報システム部門) 徳光 政弘 准教授


群馬工業高等専門学校

平社 信人 教授

全国の8高専が共同で開発した海洋観測データ収集IoT技術実証衛星「KOSEN-2」。洋上に設置されたブイから送信される微弱な海洋データの電波を、キューブサットに搭載された指向性アンテナと精密な姿勢制御によって受信する実証実験を行う。米子高専・徳光政弘准教授、群馬高専・平社信人教授にお話を伺った。

- ご自身の研究/業務内容について教えてください。

徳光  米子高専で授業や卒業研究等の教育活動を行っています。専門分野はコンピュータネットワークで、複数のコンピュータやセンサ機器を用いた自律的な情報システムの研究をしています。宇宙分野では複数の衛星の観測データを使った宇宙環境予測等の研究に携わりました。

平社  群馬高専で技術者・研究者・教育者としての3つの立場から業務にあたっています。宇宙機の姿勢制御、自律型移動ロボットの遊歩制御、関節形ロボットの開発等が主な研究テーマです。

- 今回、革新的衛星技術実証3号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。


KOSEN-2は、米子高専、群馬高専、高知高専、新居浜高専、岐阜高専、徳山高専、
香川高専、産技高専の8高専が連携して開発している

徳光  今回の革新的衛星技術実証3号機に搭載する海洋観測データ収集IoT技術実証衛星「KOSEN-2」のテーマは3つあります。1つ目は超高精度姿勢制御による指向性アンテナを搭載した海洋観測データ収集技術の実証です。キューブサットに搭載した指向性アンテナを精密な姿勢制御によって洋上の海洋ブイに向けることで、海洋ブイから送信される海底地殻変動・温度・風速等の海洋観測データを受信します。アンテナはテレビの受信等に使われる八木アンテナと呼ばれるものと同じ形式になりますが、海洋ブイからの微弱な電波を軌道上の小さなキューブサットで受信する無線技術が革新的なものといえます。今回の技術実証の成果は将来、山間部に設置された観測機器からのデータの収集等、広範囲にわたるIoTの利活用につながるのではないかと考えています。

平社  2つ目は衛星の高精度姿勢制御です。今回のミッションでは、海洋ブイとの通信に際して指向精度が要求されていますが、超小型衛星やキューブサットのように艤装スペースや電力供給に厳しい制限がある場合、高精度な姿勢制御を行うのは非常に難しいことです。そこで今回は、デュアルリアクションホイールと磁気トルカ(磁気センサ)を3軸に積んだものを用いて高精度な姿勢制御を行っています。通常のリアクションホイールの場合、電動アクチュエータで慣性モーメントを持った回転体(ロータ)を回すことでトルクを得るという仕組みですが、今回は超薄型のリアクションホイールを2枚自主開発し、それぞれアクセルとブレーキというように役目を分けてタイミングをずらしながら逆回転させることで高精度な姿勢制御を行います。


デュアルリアクション・ホイール

徳光  3つ目は持続可能な宇宙工学技術者育成とネットワーク型スキームの実証です。私たちは「高専スペース連携」という全国高専の宇宙工学分野を専門とする研究者を中心とした教育研究グループを組織しており、教員と学生がともに衛星開発を行っています。現在開発している「KOSEN-2」は革新的衛星技術実証2号機に選定された「KOSEN-1」に続く2機目の衛星ですが、「KOSEN-1」で得たさまざまな開発ノウハウを受け継ぎ、全国高専で持続可能な宇宙開発人材育成スキームを実証するということがテーマになっています。高専スペース連携の衛星開発の特徴は、各高専が専門分野ごとに持っている強みを衛星のサブシステムの開発に活かし、1つの衛星を組み上げるという点にあります。今回は、米子高専が海洋観測データの電波受信システム、香川高専が衛星・地上局間の通信システムと指向性アンテナの電気的な設計、岐阜高専が衛星の熱に関する設計、群馬高専が衛星の艤装や姿勢制御、高知高専・岐阜高専・群馬高専が指向性アンテナの機械的な設計、新居浜高専がカメラや微弱信号受信機の制御基板の製作、産技高専が磁気センサを用いた姿勢検出、徳山高専が金属3Dプリンタを用いた部品製作、などを主に担当し、それらを群馬高専に持ち寄って最終的に組み上げます。

- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。

徳光  動機は2つあります。高専スペース連携グループは「KOSEN-1」の開発を行う中でさまざまなノウハウや経験を得ましたので、さらに革新的な技術の実証に挑戦しようと考えました。その際に今回の革新的衛星技術実証プログラムの公募があり、「KOSEN-1」で開発したアンテナ展開技術や姿勢制御技術、電波受信システム構築等のノウハウを活かして、キューブサットで海洋観測データの微弱電波を受信することをテーマとして応募することにしました。これが1つ目の応募動機です。

2つ目は、教育です。高専スペース連携では衛星開発を実践的かつ重要な教育活動と位置づけており、実際に高専生が衛星開発を体験できる場が必要だと考えています。今回の革新的衛星技術実証3号機は、教育活動に最適の場であると考え応募しました。


KOSEN-2 フライトモデル

- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。

徳光  高専スペース連携の宇宙人材育成活動では衛星開発の持続性を重視しており、次の開発まで間があいてしまうと「KOSEN-1」開発で得た技術やノウハウが学生の間で伝承されなくなってしまいます。2機目の衛星打上げ機会をうかがっていたところ革新的衛星技術実証3号機の公募があり、まさにタイミングがよかったということで選択しました。


KOSEN-2 組立作業の様子

- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。

徳光  今回、小型の指向性アンテナを衛星に搭載するために、いかにしてアンテナの機能を維持しつつ衛星内に収納するかが難しい課題でした。アンテナとして求められる電気的・機械的な性能を実現するため学生が何度も実験を繰り返し、課題を克服しました。   

平社  今回は海洋ブイに精度よくアンテナを向ける姿勢制御が重要な技術となっています。苦労したのは、先にも申し上げたとおり、艤装スペースや電力供給が非常に厳しい状況にある中で開発をしていかなければいけないという点です。リアクションホイール等は既存品も出ていますが価格も高いということで、ほとんどの部品を自主開発するとともに設計図面をゼロから引き直し、試行錯誤を繰り返して艤装スペースや電力供給に優しい姿勢制御装置を考案してきました。そこが苦労をした点ですが、学生の夢をかなえたいというパワーに助けられながら我々も課題の克服に取り組んできました。


八木アンテナ試験の様子

- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。

徳光  JAXAの方々には衛星の環境試験への立会いや、衛星開発の中での技術的な助言、ロケット搭載に向けた関連手続き等、多岐にわたって支援をいただきました。衛星開発では学生が衛星の設計・製造・試験対応等をしていますが、宇宙開発の現場の方から学生に直接助言をいただく機会もあり刺激になったのではないかと思っています。

平社  審査会や各種試験などにおけるサポート等、誠に感謝しております。学生にとって衛星開発を通じてJAXAの施設を見学したり射場での作業等に携われるということはこれ以上ない実践的な経験です。宇宙教育の観点からも革新的衛星技術実証プログラムのような機会を絶やさず供給していただけることを期待します。


衛星搭載プログラム開発の様子

- 革新的衛星技術実証3号機での実証後の展望についてお聞かせください。

徳光  日本は広大な領海を有する国ですから、今回の実証が海洋上に設置された観測機器からのさまざまなデータ、さらには山間部に設置された観測機器からのデータ等を受信する技術の発展に繋がればと思っています。

平社  「KOSEN-2」はCOTS(Commercial Off-The-Shelf)と呼ばれる安価な民生品を多用した衛星です。この開発で得られた革新的な技術の定量評価を行うとともに、安価に衛星を開発する技術を獲得し、製品化を進めて宇宙産業の裾野拡大に貢献したいと思っています。また革新的衛星技術実証プログラムは絶大な教育効果もあることから、小学生や中学生への動機付けの機会として提供することも考えています。


ユニット基板の動作試験の様子

- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。

徳光  今回で高専生が開発に携わっている衛星は2機目になります。高専生たちは衛星の設計・開発・試験等の困難な課題にぶつかりながら懸命に取り組んでいますので、ぜひ応援いただければ幸いです。高専スペース連携では、宇宙工学分野の人材育成を目的として「高専スペースアカデミア」「高専スペースキャンプ」といった教育プログラムを実施しており、衛星ミッションのアイデアを競う「全国高専宇宙コンテスト」も開催しています。こうした教育プログラムを通じて衛星開発に興味を持った学生が、宇宙開発にさらなる興味を持ってくれればと考えております。

平社  今回の衛星のほとんどは、10代の学生たちが主体となって開発しています。夢を持ち真剣に物事に向き合えば、不可能と思えるような大きな仕事でも達成することができます。「KOSEN-2」を含む革新的衛星技術実証3号機を応援していただければ幸いです。

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