革新的衛星技術実証3号機

革新的衛星技術実証プログラムで宇宙産業の裾野拡大と人材の育成を目指す

JAXA研究開発部門

超小型・小型衛星宇宙実証研究ユニット長
鈴木 新一

革新的衛星技術実証3号機は、革新的衛星技術実証プログラムの3回目の実証機会として2022年度に打ち上げられる予定だ。新たなイノベーション創出に向け着実に成果を上げている同プログラムの現状や今後の展望について、JAXA鈴木 新一に話を聞いた。

- まずは、ご自身の業務内容やこれまでに携わってきたプロジェクト等について教えてください。

JAXAの前身である宇宙開発事業団(NASDA)に入社してから35年、4つの地球観測衛星のプロジェクトに、地上システム開発から衛星開発まで携わってきました。大型の人工衛星が対象で、レーダ衛星の「だいち2号(ALOS-2)」「だいち4号(ALOS-4)」においてはプロジェクトマネージャを務めました。
2022年4月からは超小型衛星やキューブサットを含めた小型衛星による宇宙実証を担当する「超小型・小型衛星宇宙実証研究ユニット」の長を拝命しております。


- 2022年4月1日から革新的衛星技術実証プログラムを実施する「革新的衛星技術実証グループ」が「超小型・小型衛星宇宙実証研究ユニット」という新しい組織へと改編されたということですが、どのような変化があったのでしょうか。

JAXAの研究開発部門では、これまで「革新的衛星技術実証プログラム」を進めてきました。「超小型・小型衛星宇宙実証研究ユニット」は、それに加えて研究開発部門が新たに取り組んでいる「小型技術刷新衛星研究開発プログラム」の実行機能を併せ持つために、新組織として改編されたものです。

各プログラムの目的は異なりますが、超小型・小型衛星を用いる点で実施手段に関しては共通する部分がありますので、全体として効率的に行うための組織改編と理解しています。

- 革新的衛星技術実証プログラムの狙い、位置づけを教えてください。

「革新的衛星技術実証プログラム」は、宇宙基本計画上の「産業・科学技術基盤を始めとする宇宙活動を支える総合的な基盤の強化」の一環として、大学や研究機関等の新規要素技術の実証及び新規事業につながる技術の実証機会を提供するプログラムです。

2年程度の定期的な間隔で実証機会を提供することにより、チャレンジングかつハイリスクな「革新的」技術に対して早いサイクルでの実証を実施します。実証成果を衛星の短期開発・低コスト化・高度化といった国際競争力の強化に活かすとともに、ベンチャービジネスの促進等によって宇宙産業を活性化して、新たなイノベーション創出につなげることが狙いです。

また、宇宙産業の競争力強化だけでなく、大学・高専などの機関にも実証機会を提供することで宇宙産業を担う人材を育成することも重要な役割であると考えています。

- 2019年に革新的衛星技術実証1号機、2021年に同2号機が打上げられましたが、それらの実証の状況や成果について教えてください。

  • 革新的衛星技術実証1号機 搭載図

  • 革新的衛星技術実証2号機 搭載図

革新的衛星技術実証1号機のうち、小型実証衛星1号機(RAPIS-1)については2020年6月に運用を終了し、実証成果はワークショップや学会等で報告されています。例えば、小型衛星用スタートラッカは製品として販売され、すでに複数の衛星での採用が確定しています。
小型実証衛星2号機については、2022年2月から約1年間にわたる定常運用を行っています。こちらも実証成果が出始めており、例えばマルチコア・省電力ボードコンピュータ「SPRESENSE™」は軌道上での動作が確認され、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)の小型月着陸実証機SLIMの探査ロボットへの搭載が決定しています。これからもどんどん良い成果が出てくることを期待しています。

- 現在打上げに向けて進行中の革新的衛星技術実証3号機の概要を教えてください。

7つの実証テーマ機器を搭載した小型実証衛星3号機(RAISE-3)、超小型衛星3機、キューブサット5機による構成を「革新的衛星技術実証3号機」として、軌道上実証を行います。

当初はこれら全てをイプシロンロケット6号機で打ち上げる計画でしたが、2022年4月に革新的衛星技術実証3号機の打上げスキームの一部変更が発表され、超小型衛星3機については別ロケットでの打上げになりました。しかし、これらすべての実証テーマ機器・超小型衛星・キューブサットによる実証が「革新的衛星技術実証3号機」ということは変わっていません。引き続き革新的衛星技術実証3号機全体で良い成果が得られるよう取り組んでいきたいと考えています。

- JAXA が開発する小型実証衛星3号機(RAISE-3)の概要や開発状況等はいかがでしょうか。

RAISE-3は100kg級の小型衛星で、三菱重工業(株)が開発担当となっています。搭載される実証テーマ機器には、通信の高速・大容量化とIoTのカバレッジ拡張を目指す装置や、水を推進剤とする超小型の推進システム、小型衛星用の電気推進装置、宇宙デブリ対策として運用を終えた衛星の軌道を低下させる膜面展開型機構、発電やアンテナ機能を実証する軽量膜展開構造物が含まれています。
機能のデジタル化・フレキシブル化を目指す実証テーマとして、軌道上での機能変更・拡張実現を目指すソフトウェア受信機や、モデルベース開発を適用する民生用GPU実証機も搭載されます。
また、RAISE-3の開発においては、フレキシブルな衛星開発手法の実証を目指し、モデルベース・システムズエンジニアリングを用いたデジタル開発を部分的に適用しています。

現在、RAISE-3の開発は終盤にかかってきており、フライトモデルのシステム試験が始まっています。各機器の動作を確認する電気性能試験、打上げ環境や軌道上の環境を模擬した熱真空試験や振動試験などを実施していきます。


小型実証衛星3号機(RAISE-3)音響試験

- 開発の上での苦労などがありましたら教えてください。

RAISE-3は私がこれまで関与してきた大型衛星と比べて開発期間が非常に短く、すべてが倍速で動いているような感覚があります。非常にタイトな開発スケジュールの中で、なんとか解決策を見出しながら日々頑張っています。 一方、開発サイクルが早いことで、変化に速やかに対応できる、というメリットもあります。この身軽さを活かして世の中の状況の変化に柔軟に対応していくことが重要だと考えています。

- 本プログラムの今後の展開について教えてください。

本プログラムは、企画当初と比べて、プレイヤーが増えており、多様な目的に応じた実証手段を提供できるよう見直しが必要な時期に来ていると考えています。潜在的なプレイヤーを含め広く意見を伺って、今後の計画に反映していきます。

革新的衛星技術実証1~3号機では、JAXAが実証テーマ機器を搭載する小型実証衛星を開発し、超小型衛星やキューブサットと一緒に打ち上げるという形で進めてきました。これからは例えば、実証テーマ機器を搭載する小型衛星の開発に、民間のサービス等を活用することもあり得るのではないかなど、広くいろいろな可能性を探っていきたいと考えています。

皆さんが宇宙でやりたいことにチャレンジできる場ですので、ぜひ積極的にご参加いただきたいと思います。

- 最後に、小型衛星産業の展望や目指す未来についてお聞かせください。

私が主に関わってきた地球観測の分野において、人工衛星が実用的に使われるようになるにつれ、官の衛星だけでは観測頻度が十分でなく、小型衛星コンステレーションとの連携が不可欠になってきています。
衛星製造から運用・利用まで幅広い分野で裾野が広がることで、先端的な技術や強みのある技術を有する国内のプレイヤーが増え、宇宙産業がさらに活性化していくことを期待しています。