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革新的衛星技術実証3号機 実証テーマ
民生用GPUを活用し軌道上でのデータ処理実現を目指す
三菱電機株式会社
鎌倉製作所 宇宙技術部 技術第三課 平栗 慎也
鎌倉製作所 宇宙技術部 技術第三課 藤城 翔
「民生GPU実証機 GEMINI」は高性能な民生用GPUを搭載し、宇宙環境での動作状況のデータを取得する。アプリケーションの開発としてモデルベース開発にも取り組み、これまで地上局で行っていた地球観測衛星データの高次信号処理を衛星側で行い、迅速なデータ提供に繋げることを目指している。三菱電機株式会社の平栗慎也氏、藤城翔氏にお話を聞いた。
- ご自身の業務内容について教えてください。
平栗 人工衛星搭載用のデジタル機器、例えば衛星を制御するためのコンピュータや観測データを取得して一時的に保存するSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)のようなものを作り、それを地球観測向けの衛星に搭載する部署で主に設計開発を行っています。
藤城 私は人工衛星に搭載する開口面アンテナの設計を行っており、地上側と衛星側の通信や、地球方面に向けて観測を行ったデータを取得する役割を持つ部分の開発をしています。
- 今回、革新的衛星技術実証3号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。
平栗 今回の実証テーマは「民生GPU実証機の軌道上実証」であり、機器は「GEMINI( cots GPU based Edge-computing for MIssion systems utilizing model based systems engiNeerIng )」と呼んでいます。昨今、小型衛星による地球の常時観測などのニーズが高まってきていますが、今までの衛星の場合、軌道上で取ったデータをそのままの形で地上にダウンリンクし、地上のCPUサーバなどで処理をしてユーザの求める情報を抽出していました。今後は小型衛星コンステレーション等による高頻度の観測によって観測データ量が飛躍的に増加し、地上にすべてのデータをおろすことができなくなるのではないかと予測されています。そこで、これまで地上で行っていたデータ処理を衛星の方で行い、莫大な観測データの中から必要なデータを抽出してすぐに地上におろしてユーザに届けるというニーズが出てきています。
これまで人工衛星用として使われてきたCPUは、非常に高い信頼性を追求している半面、性能面では地上のパソコン用のCPUよりも劣っており、現状のままだと軌道上の人工衛星でデータ処理をしようとしてもできないという状況でした。一方で、地上のパソコン用の高性能なCPUは発熱量が多く、そのままでは軌道上では使えないという問題がありました。
そんな中、民生分野ではIoT端末等向けの低電力・高性能なAI処理ができるチップがどんどん出てきており、この高性能な民生用GPUを軌道上で実証したいというのが今回の目的の1つです。しかし民生用GPUは、宇宙放射線の影響で誤動作してしまうという問題が潜んでいます。今回の実証では、実際に民生用GPUを宇宙に打ち上げ、エラーが起きた時にどのような挙動をするのかという詳細なデータを取り、そのエラーに対応する仕組みを検討し、今後軌道上で使えるようにしたいと考えています。
本実証テーマでは、もう1つ「モデルベース開発」という目的があります。高性能な民生用GPUが宇宙で使えるようになると、これまで宇宙用GPUではできなかったさまざまな処理を衛星で行うことが可能になります。しかしそれを実行できるアプリケーションがなければ意味がありませんので、アプリケーションの開発も両輪で行います。「こう動作してほしい」というモデルを作り、シミュレーションによってソースコードを自動的に生成できるようモデルベースで開発することで、生産性を上げ開発期間を短縮することに繋げていきたいと思っています。
民生GPU実証機 GEMINI
- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。
平栗 昔から民生品を宇宙で実証して使おうという枠組みはあったのですが、宇宙に持っていって評価し終わったときには、より高性能な製品が出ていたり実証した民生品がすでに買えなくなっていたりして、結局、実証した意味がなくなってしまうということがありました。この革新的衛星技術実証プログラムは開発のスパンが短く、タイムリーに最新の技術を軌道上で実証できるという点に非常に魅力を感じて応募しました。
- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。
平栗 革新的衛星技術実証プログラムでは、我々が考えたいちばんやりたいこと・チャレンジングな内容を提案し、実際に実証できるという点に非常に魅力を感じました。また、今回は入社1~2年目の若手技術者たちが実際に手を動かして設計し、彼らが考えたものを製品化していくというチャレンジができたので、技術者の育成という観点からも非常に有意義だったと感じています。
- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。
藤城 今回、実担当として私を含む多くの若手技術者が開発を担当しました。入社1~2年目の若手ということでまだまだ知識不足・経験不足が否めず苦労したこともありましたが、十分経験を積んだ技術者たちが我々を支援してくれたおかげで、大きな問題なく開発を進められました。我々若手技術者の大きな成長にも繋がったのではないかと考えています。
平栗 若手ならではの、とりあえずやってみてデータを見て考えようという姿勢が非常に良かったと思っています。最先端の民生品を使ってみるとこれまでの宇宙開発の常識が通用しない場面も多々ありましたが、若手が実際に試験して、課題点を議論しながら開発を進めたことで、驚きもたくさんある楽しい開発になりました。
開発風景
- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。
平栗 衛星バスとのインタフェースが変更となり、機器の設計変更をしなければならなくなって苦労したこともありましたが、それを機器としてまとめ上げるサポートをしていただき本当に感謝しております。現在、宇宙産業の開発スピードは世界的に上がってきていますが、そんな中、日本が宇宙開発を継続して世界と戦える力を手に入れるためには、革新的衛星技術実証プログラムのような実証機会は非常に貴重だと考えています。このような日本の宇宙産業に対してサポートいただけるような開発機会をこれからも継続して提供いただけたらと思います。
- 革新的衛星技術実証3号機での実証後の展望についてお聞かせください。
平栗 軌道上で民生用GPUの貴重なデータが得られたら、それをもとにどれくらいのエラーが発生するか、それにどういう対策をしてどういうサービスが提供できるかを検討し、迅速にユーザの欲しい情報を提供できる衛星開発に繋げたいと考えています。
藤城 今回革新的衛星技術実証3号機で得られた経験をもとに、今後の開発においてもどんどん我々若手の力を注いでいけたらと思っています。
- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。
平栗 宇宙開発には、まだよくわからないこと、できないことがたくさんあります。しかし、何か1つできるようになるたびにまったく違う明日を切り拓けるフィールドだと考えて、これまで宇宙開発に邁進してきました。今回のこの革新的衛星技術実証プログラムはそれを大きくブーストする機会だと思いますので、我々もこの機会を最大限活用して、より素敵な宇宙開発を継続したいと考えています。
藤城 今回は軌道上における民生GPUの実証というテーマで開発を行いましたが、その中で感じたのは、宇宙開発は学生のときの研究分野など自分の強みを活かせる場であると同時に、そのままでは通用しないこともあるということです。そういう面白味もありますので、宇宙開発に興味がある方はぜひ参加していただけたらと思います。