革新的衛星技術実証3号機 実証テーマ

宇宙テザーでスペースデブリ捕獲技術を実証する

静岡大学

工学部 能見 公博 教授

宇宙空間で長さ1kmのテザー(ひも)を伸ばし、その上で小型ロボットを移動させることでテザーの形状を制御。衛星を模擬宇宙ごみ(スペースデブリ)に接近させて捕獲する技術を実証する宇宙テザー利用技術実験衛星「STARS-X」は、喫緊の課題であるスペースデブリ問題解決に向けて期待を集めている。提案代表者の静岡大学 能見公博教授にお話を伺った。

- ご自身の研究内容について教えてください。

私の研究室では、スペースデブリの回収除去や宇宙エレベーターについて研究をしています。どちらもテザーの技術を利用したものです。テザーには軽量かつ宇宙空間で非常に大きく展開できるというメリットがあり、実際にどんな使い方があるのか、多くの研究者が研究に取り組んでいます。

- 今回、革新的衛星技術実証3号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。

1つは、テザー技術の実証です。我々は以前から衛星から長いテザーを伸ばす実験をしたいと考えていました。「STARS-X」は50kg級の超小型衛星ですが、軌道投入後、親衛星と子衛星の2機に分離し、内蔵した長さ1kmのテザーを伸ばすことを考えています。地球周回軌道上には重力傾斜(地球から離れていくと重力がだんだん小さくなっていく重力の変化の割合)があるため、テザーをまっすぐ伸ばすことができます。スペースデブリ除去にテザーを用いるためには非常に長く伸ばさないといけないのですが、今回のように長さ1kmものテザーを伸ばすのは日本で初めてのことです。この技術は将来の宇宙エレベーターなどにつながっていくでしょう。

2つ目はスペースデブリ捕獲に向けたテザーの伸展形状の制御技術の実証です。今回は2つの衛星の間に長く伸ばしたテザーの上をクライマーという小型ロボットを移動させる実験を行います。地上では垂らした状態のロープの上でロボットを移動させるとまっすぐ動きます。ところが宇宙では衛星が秒速7~8kmで動いている影響もあって、テザーの上をロボットが移動していくと、まっすぐ動けずに横に動いたりします。するとまっすぐ伸びたテザーが「くの字」に曲がったりするので、その動きを利用してテザー上のロボットだけでなく、両端にある親衛星や子衛星の軌道も変えることができます。その動きをうまく制御してスペースデブリに接近していく技術を獲得したいと思っています。

3つ目はネットによるスペースデブリ捕獲技術の実証です。今回は衛星から模擬デブリを4回放出し、ネットの大きさや放出する速度などさまざまな条件を変えて捕獲します。この技術が確立できれば、喫緊の課題であるスペースデブリ問題の解決に貢献できると信じています。

さらに将来的にはスペースデブリを資源として機器や資材を再利用することを考えています。多くの研究者がスペースデブリを除去する方法を考えていると思いますが、衛星はもちろんのこと宇宙に物を持っていくのは大変なことです。そう考えると、スペースデブリを資源としてリサイクル・リユースできないかという発想に至っています。

宇宙テザー利用技術実験衛星 STARS-X

- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。

スペースデブリを除去する技術の実用化はもちろんですが、スペースデブリのリサイクルについては事業化を目指して静岡大学発のベンチャー企業を立ち上げています。革新的衛星技術実証プログラムは、事業化という目的に非常に合っていると思って応募しました。

私たちはこれまで「STARS(Space Tethered Autonomous Robotic Satellite)プロジェクト」として6機の超小型衛星を開発し、国際宇宙ステーションからの放出やH-ⅡAロケットの相乗り打ち上げなどによって宇宙実験を行ってきました。今回の「STARS-X」はその集大成として大学の研究を事業化して世に出したいという思いを強く持っています。

- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。

超小型衛星の開発は研究テーマとしてやってきており、技術的な蓄積はあるのですが、これまではキューブサットレベルだったものが今回は50kg級の衛星ということで、衛星バス(衛星の基本機能に必要な機器や主構造)技術がかなり違い、そこに非常に苦労しています。さらに「STARS-X」はロケットに搭載して軌道に投入された後2つに分離します。打上げの際の振動などによって衛星が分離しないように確実に固定する一方、軌道上に放出されたときには分離しないと実証ができません。その仕掛けに非常に苦労しました。振動試験をクリアすることができても、その後うまく分離できないということもあったため何度も試験を繰り返し、なかなか開発が進まないということがありました。

- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。

2021年11月に革新的衛星技術実証2号機が打ち上げられたこともあってJAXAの方たちは非常に忙しかったのではないかと思いますが、その中でも丁寧にサポートしていただいて感謝しています。要望としましては、安全審査の審査会等をもう少し早めに開催していただけると衛星の設計も安心して進められるのではないかと思います。

- 革新的衛星技術実証3号機での実証後の展望についてお聞かせください。

テザー伸展に関して我々は2014年に打ち上げた「STARS-Ⅱ」という衛星で300mのテザーを地球方向に伸展するという実験をしています。しかし今回は1kmとさらに伸ばし実際に宇宙でテザー利用の可能性を評価することで、学術的な成果が期待できると思います。また今回は宇宙空間でロボットを操り人形のように動かしてスペースデブリを捕獲することにチャレンジしますが、今回の実証をふまえて実用化に繋げていきたいと思っています。その先にはスペースデブリのリサイクルを目指していますが、リサイクルに関しては我々の知見だけではなかなか難しいのでどんなリサイクルが可能なのか十分に考えた上で事業化に繋げていきたいと考えています。

- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。

人工衛星というと通信、リモートセンシングによる地球や天体の観測といった印象が強いと思いますが、我々は「宇宙空間で動く機械制御システム」をテーマに研究をしています。今回のミッションもハラハラドキドキしたり楽しめたりする部分が多いと思いますので、ぜひ注目していただきたいと思います。また今回の実証は、将来的にスペースデブリの除去や宇宙エレベーターなどに繋がっていきますので、それがどんなものなのか興味を持っていただければ非常にありがたいと思っています。もちろん大学衛星ですので、興味を持っていただいた方は静岡大学浜松キャンパスにお越しいただければうれしいですね。

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