小型実証衛星3号機(RAISE-3)開発

実証テーマ提案者の熱い思いに応えたい

三菱重工業株式会社

防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 技術部 システム制御設計課 衛星チーム
成澤 泰貴 主席技師

2022年度に打ち上げられる革新的衛星技術実証3号機において、「小型実証衛星3号機(RAISE-3)」に搭載された7つの部品・コンポーネント・サブシステムの実証を行う。三菱重工業株式会社(MHI)でRAISE-3の開発を担当している衛星チーム・成澤 泰貴氏に衛星開発の意気込み、今後の展望などをお聞きした。

- ご自身の担当業務内容やこれまで携わってきた業務等について教えてください。

衛星関係のシステム開発などを担当しています。これまでは革新的衛星技術実証2号機の実証テーマに選定された超小型衛星「Z-Sat」の開発全体の取りまとめをしていました。現在は小型実証衛星3号機(RAISE-3)開発プロジェクト全体の取りまとめを担当しています。

- 小型実証衛星3号機(RAISE-3)の開発体制について教えてください。

  • 小型実証衛星3号機(RAISE-3)イメージ画像

  • 「D-SAIL」「HELIOS」展開時 イメージ画像

RAISE-3は、航空機やロケットエンジンなどを手がけるMHI名誘(名古屋誘導推進システム製作所)にいる宇宙関係のメンバーが主となって開発を行っています。RAISE-3には7つの部品・コンポーネント・サブシステムが搭載されていますので、そういった実証テーマ機器の開発者の方々とも協力し合いながら開発を進めていく体制を取っています。

- 革新的衛星技術実証2号機に搭載された超小型衛星「Z-Sat」に続き、革新3号機ではRAISE-3の開発を行い、小型衛星事業に積極的に参画されている御社ですが、小型衛星事業への参入の背景や狙いをお聞かせください。

当社の衛星事業への取り組みは、20年以上前、衛星に搭載するデバイス開発からスタートしています。それ以後、現在にいたるまで衛星に搭載するコンポーネントなどを担当させていただきつつ、いずれは衛星のシステム開発まで到達したいという思いで事業を展開してきました。その足がかりとして、革新的衛星技術実証2号機で打ち上げられた超小型衛星「Z-Sat」を自社開発し、今回RAISE-3という衛星システム全体を任せていただけるところまで来ました。   

しかし我々はここがゴールだとは考えていません。現在は小型衛星の宇宙インフラが世界的に大きくなりつつある状況ですので、我々も衛星事業、特に衛星システム全体の開発・取りまとめに取り組んで、宇宙インフラ構築の発展に貢献していきたいという思いです。

「Z-Sat」も無事に打ち上がり軌道上で正常に運用できています。そういった成果を積極的にアピールしていきながら、RAISE-3の開発等、着実に前進していきたいと考えています。   

- RAISE-3には7つの部品・コンポーネントが搭載されますが、その中には推進系や展開物など他の実証機会ではあまり搭載されないような機器も複数搭載されています。開発で苦労されたこと、工夫した点があれば教えてください。

各実証機器の配置は開発の初期の段階で大きく苦労した点のひとつです。
たとえば推進系の機器であればプルーム(加速されたプラズマ)が出ますので、衛星自体にかかったりしないようにスラスタの向きを工夫しなければなりません。しかし変な方向に向けてしまうと、衛星もあらぬ方向に行ってしまうことになるので、そうならないように設計の初期の段階から配置の工夫をしました。

また、今回は展開物が2つ搭載されています(膜面展開型デオービット機構「D-SAIL」、発電・アンテナ機能を有する軽量膜展開構造物「HELIOS」)。それぞれの目的を達成するために「こういった方向に展開してほしい」といった要求もありますので、それを満たしつつ、一方で推進系の噴射を受けないようにしたり、展開物が衛星の姿勢制御に与える影響等も考慮したりしながら、開発を進めました。さらにRAISE-3のバス部分には姿勢を検知するセンサや通信のためのアンテナなどを搭載していますので、それらが邪魔にならないような機器の配置にも非常に苦労しました。

7つの実証テーマの方々からは「軌道上で実証する機会を活かし、最大限の成果を出したい」という思いが、ひしひしと伝わってきます。
実証テーマの方々の熱い思いを直に感じ、一段と身の引き締まる思いで開発に当たっています。


RAISE-3 振動試験

- 打上げ後、RAISE-3の運用もMHI名誘で担当されるのでしょうか。

はい。今、運用の体制についても検討を進めているところです。基本的にはRAISE-3の開発などに携わったメンバーを中心として運用の体制を組んでいくことを考えています。

- 今後の宇宙産業の見通し、また、それを踏まえた御社の今後の衛星事業の展開についてお聞かせください。

昨今、報道などでも「小型衛星」あるいは「衛星コンステレーション」といった言葉が当たり前のように聞かれるようになっています。我々も「Z-Sat」では地球観測等の衛星コンステレーションという形で貢献できればという展望を持っています。また、今回のような軌道上での実証といった形でも小型衛星は有用であることから、今後ますます市場規模が拡大していくと考えています。我々は「Z-Sat」や今回のRAISE-3の開発といった経験を足がかりにして、これから小型衛星の分野の確固たる地位を築いていきたいと考えています。今回のRAISE-3開発に携わった弊社の若いスタッフも、宇宙に関わる仕事がしたいという一心で大きなやりがいを感じて取り組んでいます。

- 最後に、抱負・意気込みをお願いします。

今回はRAISE-3に7つの実証テーマ機器を搭載していますが、各提案者の皆さんの「機器を実証して宇宙産業を大きく発展させたい」という思いが強く伝わってきており、強い責任感を感じています。この後もRAISE-3の開発は続いていきますが、何としても成功させて皆さんの熱い思いに応えると同時に、これからの宇宙インフラ構築の発展のため突き進んでいこうと考えています。