革新的衛星技術実証3号機 実証テーマ

世界最小クラスのキューブサット搭載用マルチスペクトルカメラを実証する

一般財団法人未来科学研究所

理事 佐鳥 新
中村 聡希

キューブサットに搭載可能な小型・軽量のマルチスペクトルカメラを搭載した実証衛星「FSI-SAT」。その観測システムは、将来的に地球の資源や月面の探査だけでなく山火事の検知などの防災分野での利用も期待されている。一般財団法人未来科学研究所の佐鳥新氏、中村聡希氏にお話を伺った。

- ご自身の研究内容について教えてください。

佐鳥  私はもともとイオンエンジンの研究をしていました。15年ほど前から、可視から赤外までの帯域を100バンド以上の分解能で画像化するハイパースペクトルカメラ(光を波長ごとに分光して撮影するカメラ)を開発し、その利用技術について研究しています。

中村  私は佐鳥先生のもとで人工衛星や光通信など、宇宙技術に関する研究をしています。

- 今回、革新的衛星技術実証3号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。

佐鳥  我々にとって衛星の打上げは十数年ぶりのことです。今回は人材育成という面を含めて、新しいメンバーとキューブサットを開発しました。ここ10年ほど研究しているマルチスペクトルカメラを搭載し、宇宙空間で技術実証することがミッションになっています。まず軌道上でミッション機器が動作することを確認することが第一歩だと考えています。

中村  マルチスペクトルカメラとは、通常のカメラの赤・緑・青(RGB)の3波長以外の波長も撮影できるマルチ波長のカメラです。今回技術実証するマルチスペクトルカメラは、イメージセンサとMDHU(Mission Data Handling Unit:ミッションデータ処理系)で 1つのセンサ機器となっており、RGBイメージセンサとモノクロイメージセンサを使用し、バンドパスフィルタを取り付けて4バンドの画像を取得します。撮影した画像データはMDHU内部に記録され、ダウンリンク後に地上で合成し、マルチスペクトル画像を生成します。

1 U(10×10×10cm)のキューブサットに搭載できるほど小型(高さ40mm×幅100mm×奥行き50mm未満)・軽量のマルチスペクトルカメラのシステムの軌道上実証がメインのテーマですが、その先、佐鳥先生が開発されたハイパースペクトルカメラの利用の発展に繋がっていくのではないかと考えています。


CubeSat搭載用超小型マルチスペクトルカメラ実証衛星 FSI-SAT イメージ画像

- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。

佐鳥  革新的衛星技術実証プログラムには1号機の時から注目しておりハイパースペクトルカメラの実証を提案しましたが採択されませんでした。今回は2度目のチャレンジとしてマルチスペクトルカメラを搭載したキューブサットについて、革新的衛星技術実証3号機に応募しました。

- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。

佐鳥  革新的衛星技術実証プログラムは、搭載できる衛星の条件などの面で優位性があると感じています。

- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。

中村  世界的な半導体不足の影響で部品の調達が難しく、必要な部品をどうにかして入手するか代替品を探さなければならなかったということが苦労した点です。また我々は今回マルチスペクトルカメラの実証に加えてレーザの受信ミッションも行いますが、1Uのキューブサットの中にさまざまな機器を押し込むという点で、だいぶ工夫が必要でした。

コロナ禍とはいえ衛星の開発は手を動かさないと何も進みません。我々は感染対策を入念に行ったうえで、研究室で開発を実施しています。このまま最後まで無事に開発を行えればと思っています。

- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。

佐鳥  JAXAのサポートは丁寧で、締切だけ決めて後はユーザにお任せ、というわけではなくスケジュール管理までしていただいて、大変ありがたかったです。革新的衛星技術実証プログラムは、2年に1回の打上げですが、さらに実証機会が増えるといいと思います。

中村  スケジュール面、プロジェクトの管理の面でも、いろいろアドバイスをいただいたり、連携を取っていただいたりしています。回路の設計など細かい課題に対しても相談にのっていただいたほか、我々が気づかなかった課題点なども指摘してもらい、非常にありがたく思っています。

- 革新的衛星技術実証3号機での実証後の展望についてお聞かせください。

佐鳥  「FSI-SAT」には地球観測用のマルチスペクトルカメラを搭載していますが、もう1つの基礎実験として、地球とは反対側の深宇宙にカメラを向け、スタートラッカとして利用するための予備実験をしてみようと考えています。次に開発する衛星ではハイパースペクトルカメラを搭載し、姿勢制御にスタートラッカを使うということを考えていますので、今回の衛星はそのための実証となることを期待しています。また今回のマルチスペクトルカメラは非常に軽量で小型、衛星搭載用としては最小レベルですので、地上で使う際にも十分有用だと思います。

事業化に関していえば、我々が開発したマルチスペクトルカメラとハイパースペクトルカメラは民生用としてすでに販売しています。今後は、赤外の領域を使って地球を周回し鉱物資源を探査する事業を立ち上げ、その先には月面での資源探査の予備実験を始めたいと思っています。

中村  「FSI-SAT」に搭載しているマルチスペクトルカメラが軌道上で取得したデータを活用し、今後のマルチスペクトルカメラやハイパースペクトルカメラの開発に活かしていきたいと考えています。将来的にこういった宇宙実証の結果を事業として展開していけたら非常に喜ばしいと考えています。

データの利活用はこれからさらに広がっていくと思います。たとえば山火事のような異常の検知など防災の面や、遭難者を検知するなど様々な可能性もあると思いますので、活用法を探っていければと思っています。

- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。

佐鳥  これからの分光観測による月面探査などに関して事業化を考えている人がいらっしゃれば、協力して進めていきたいと思いますので、ぜひお声がけいただければと思います。

(佐鳥理事はインタビュー後にご逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。)

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