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革新的衛星技術実証3号機 実証テーマ
低軌道衛星と地上局間通信の大容量化に向けて世界初の通信技術を実証する
日本電信電話株式会社
アクセスサービスシステム研究所 無線エントランスプロジェクト
山下 史洋
糸川 喜代彦
日本電信電話株式会社は「低軌道衛星MIMO/IoT伝送装置 LEOMI」で 920MHz帯を用いた超広域衛星IoTプラットフォームの技術実証ととともに、世界で初めて衛星MIMO技術を用いた低軌道衛星―地上局間通信の実証を行う。同社アクセスサービスシステム研究所の山下 史洋氏、糸川 喜代彦氏にお話を伺った。
- ご自身の業務内容について教えてください。
山下 NTTアクセスサービスシステム研究所は、主に光や無線通信を用いたアクセスネットワークの研究開発を行っております。私たちが所属する衛星通信グループでは、Beyond 5G/6G時代に向けた新しい衛星通信方式に関する研究や、NTT事業会社で実際にご利用いただく災害対策用の衛星通信装置の実用化開発を担当しております。
- 今回、革新的衛星技術実証3号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。
低軌道衛星MIMO/IoT伝送装置 LEOMI
山下 JAXAとNTTで共同研究を進めている「衛星MIMO技術」と、NTTで研究を進めている「衛星IoT技術」、この2つの技術の実証を行い、地上-低軌道衛星間の通信の大容量化と、これまでの移動通信システムではエリア化するのが難しかった空・海・宇宙などを含むIoTの超カバレッジ化を目指します。
MIMO技術とは、携帯電話や無線LANにおいて伝送容量を増やすために用いられている技術で、送信機と受信機の双方に複数のアンテナを用います。衛星通信は長距離な上に衛星とアンテナの間に障害物がなく、地上とは電波の伝わり方が異なるため、伝送容量はそれほど得られないのではないかと予想されていました。今回の実証実験では、NTTが保有する受信タイミング・周波数誤差が異なる複数の信号の干渉を取り除いて受信する技術と、JAXAが保有する衛星MIMO通信の通信容量を推定する技術を組み合わせて得られた衛星MIMO技術を適用することで、衛星通信においても伝送容量が拡大できるということを実証したいと考えています。
もう1つの目的である衛星IoT技術については、地上で携帯電話や無線LANなどに利用されている920MHz帯のさまざまなIoT端末の電波を、衛星を経由して地上基地局で受信して復調できることを実証します。これによって地上の電波が届かないエリアでも衛星を経由して安価にIoT通信サービスを利用できる見通しを得たいと考えています。
実証のイメージ
- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。
山下 私たちはJAXAとの共同研究で2019年から衛星MIMO技術の研究開発に取り組んできました。「衛星MIMOとはどういうものか」という机上検討から始め、ある程度技術として成果が見えてきた段階で、実際に衛星軌道上で技術実証したいと考えていたところ、革新的衛星技術実証プログラムを知り、応募することにしました。
- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。
山下 技術実証のタイミングとして非常にタイムリーであったということ、衛星やロケットはJAXA側で準備いただいたうえで技術実証ができるというコストメリットがあること、また何よりJAXAにサポートをいただきながら衛星での実験ができるということが理由です。
開発の様子
- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。
糸川 LEOMIは、主に衛星IoT受信部と衛星MIMO送信部の2つで構成されています。
衛星IoT受信部は、地上のIoT端末からの微弱な信号を受信するため、雑音対策が必要になります。一方、衛星MIMO送信部は複数の高出力信号を同時に送信する必要があるので、設計段階から消費電力や熱設計に気を付ける必要がありました。限られた搭載スペースや質量条件の元、それらの構成を一つのコンポーネントに実装することに非常に苦労しました。
IoT受信部の雑音対策は、コンポーネントを4つの構成部に分割し、各構成段のインターフェース基板をそのままシールドとして活用できる装置構成設計を行うことで、高感度特性が要求されるIoT受信部に影響しないように工夫しています。また、試験を通じて耐放射線対策の強化が必要なところが明らかとなりましたので、部分的にシールド対策等を施しています。
もう一方の衛星MIMO送信部は、各信号伝送品質と消費電力をバランスさせるように部品選定を行うことで、フライト品では宇宙の環境を模した熱真空試験において負荷が最大となる伝送モードであっても、所定の性能を満足できることを確認しています。
- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。
糸川 インターフェース調整、開発スケジュールなど多くの面でご指導ご支援をいただき感謝しています。
- 革新的衛星技術実証3号機での実証後の展望についてお聞かせください。
山下 我々NTTアクセスサービスシステム研究所は「世界初」というところに重きを置いています。今回のように世界でまだ誰もやっていない技術の実証を行い、得られた知見・成果を活用して速やかに実用化開発に取り組みたいと考えています。
衛星IoTプラットフォームの技術実証に関しては、920MHzはスマートメーターなどすでにいろいろ使われていますので、現在、地上で使われているさまざまなプロトコルのIoT信号に対応でき、大きく世の中に広まっていくと考えています。
また衛星MIMOについては、今回の実証範囲は基本的な技術の確認までを予定していますが、NTTとして月面探査や深宇宙探査も見据え、より大容量のデータを宇宙から地上にダウンリンクできる技術を確立し、タイムリーに世の中に出していきたいと考えています。
- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。
山下 NTTアクセスサービスシステム研究所としては新たな技術の研究開発を通じて宇宙産業に貢献していきたいと考えています。今回このサイトをご覧の皆さまとは今後、宇宙の衛星通信技術など新しい宇宙ビジネスについてぜひ議論させていただければと思います。もし興味を持っていただきましたら私どもにお声がけいただければと思います。
アンテナ試験の様子