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革新的衛星技術実証3号機 実証テーマ
機能の変更や拡張が可能なソフトウェア受信機を軌道上で実証する
NECスペーステクノロジー株式会社
技術本部 第二搭載技術部 森里 司
技術本部 第一搭載技術部 長崎 啓志
民生機器に用いられる高性能な部品を信号処理ボードに採用し、軌道上での機能の変更や拡張を可能とする「ソフトウェア受信機 SDRX」。開発工程にもデジタル技術を取り入れるフレキシブルな手法を導入し、製品の短期開発と低コスト化を目指すNECスペーステクノロジー株式会社の森里 司氏、長崎 啓志氏にお話を伺った。
- ご自身の業務内容について教えてください。
森里 私は人工衛星のミッションデータ処理系デジタル機器の開発を担当しています。近年はデジタルデータを高速で伝送する装置の開発に携わっています。
長崎 私は人工衛星に搭載する通信機器、特に高周波の電波を送受信する機器を開発しています。
- 今回、革新的衛星技術実証3号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。
森里 ソフトウェア受信機SDRXは、民生用のデバイスを用いて高速の信号処理を行う人工衛星搭載用の通信機器のひとつです。私たちの身近にある電子製品(民生品)に組み込まれた高性能な部品を、軌道上の通信機器に採用する試みで、SDRXとはSoftware-Defined Radio Receiverの略語です。
今回の実証には、次の4つの目的があります。1つ目は軌道上での通信機能の変更や拡張が可能な即応型のソフトウェア受信機を開発すること。2つ目は開発工程にもデジタル技術を導入し、試作品の製作をシミュレーションに代替するなどのフレキシブルな開発手法を適用し短期間での製品開発を実現すること。3つ目は高性能な民生用デバイスの耐宇宙環境性を確認すること。4つ目は受信機に内蔵する次世代MPUの軌道上での信頼性評価をすることです。
目的の2つ目に挙げたフレキシブルな開発手法の実現では、これまでのハードウェアを試作してからソフトウェアを開発していく「モノありき」の手法を改め、モノを作らない”ものづくり開発手法”としてシミュレーター上で作業を行うことで、製品開発のフレキシビリティを上げるとともに設計期間の短縮を目指しています。通常の開発では試作試験モデル(BBM)、開発モデル(EM)、フライトモデル(FM)と3段階の試作を行うことがありますが、今回はBBMの段階ですでにFMに近い状態で信頼性評価を実施することができました。この手法を今後の設計ベースの1つとして使っていきたいと考えています。
長崎 今回、開発工程にデジタル技術を取り入れたことで、通常なら3週間は掛かりそうな一部のソフトウェア・コーディング作業が、数分で完了してしまうという驚きの経験ができ、既に成果を実感しています。
ソフトウェア受信機 SDRX
- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。
森里 近年、宇宙ベンチャーと呼ばれる企業が林立する中、これまでのような品質は良いが価格の高い製品では、ビジネスができなくなると考えています。この状況に対応すべく、民生用デバイスを使って小型で開発期間が短く価格も安い通信機器を開発し、これまでと何がどう違うのか、また、どのように製品開発を進めていけばいいのかを検証したいと思って応募しました。
長崎 弊社は長く宇宙機やその搭載機器を扱ってきている企業で、軌道上で長く運用できる衛星や「はやぶさ2」に代表される探査機などの実績による高信頼性を強みとしてきました。しかし弊社もこれまでと同じような設計基準でこの先やっていけるのかという不安が私にもありました。今後も国際的に競争力のある製品を開発していきたいという思いから、革新的衛星技術実証プログラムに応募しました。
- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。
森里 この革新的衛星技術実証プログラムは、他の実証機会と比べフレキシブルな部分にメリットを感じました。ソフトウェア受信機SDRX自体の開発と、衛星システムに対する細かな仕様の調整を並行して進めることができました。
- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。
森里 これまで私たちが製品開発で使ってきた部品は、技術的に熟成されたものであり、ある意味「枯れた部品」でした。このような部品であれば部品メーカが宇宙環境での使用についても信頼性を保証しスペックを比較的簡単に確認できるのですが、ソフトウェア受信機SDRXの開発では新規の民生用デバイスを使用しています。開発中には、その部品カタログの記載から”想定される動作をしない”といったトラブルが起こり、新規部品を使う大変さを痛感しましたが、その都度、若手の技術者達が解決していきました。また、一方で、そのような部品を使うことで高性能であると同時に機器の小型化ができるという点で非常にメリットを感じました。
SDRX 振動試験の様子
- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。
森里 大変能動的にサポートいただき、非常に助かりました。衛星システムの仕様が確定する前の段階から、基本的な部分については先行して情報を提供して頂いたので、スムーズに設計していくことができました。設計期間の短縮に非常に効果があったと考えています。
長崎 JAXAの担当の方が比較的自分と年齢が近いというのもあり、コミュニケーションも円滑で、楽しく開発させていただきました。
- 革新的衛星技術実証3号機での実証後の展望についてお聞かせください。
森里 部品、コンポーネントを軌道上で実証できる機会はなかなかありませんので、今回の実証で新しい方式や部品の評価を確実に実施していきたいと考えています。ソフトウェア受信機SDRXは、違うアプリケーションに対してもFPGA( field-programmable gate array )の中身を書き換えて使うことができるというフレキシビリティの高さや、FPGA内部の処理内容の詳細な確認ができるというデバッグ性の高さがあり、将来的にはさまざまな機器のベースとして利用されていくのではないかと考えています。
長崎 ソフトウェア受信機SDRXは軌道上のオンボードで回路の切替え(ソフトウェアの書換え)によって受信機の機能・性能を変えることができます。この先、例えばある目的で打ち上げた衛星を、5年後に軌道上でプログラムを書き換えて別の目的で使うといった要望が増えてくると考えています。それに対して今回のソフトウェア受信機SDRXを応用したコンポーネントを使うことで、軌道上での機能や性能の変更に対応できると考えています。
SDRX 熱真空試験の様子
- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。
森里 宇宙開発に関心が高い人だけでなく、私たちとしてはもっと広く皆さんに目を向けていただけるような製品開発を進めていきたいと思っています。
長崎 このホームページを見て、NECスペーステクノロジーという会社がいかに積極的に宇宙産業に関わっているのかを知っていただければ幸いです。