革新的衛星技術実証4号機 実証テーマ

再チャレンジ -回転分離を用いた超小型衛星の編隊形成

名古屋大学

大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 准教授 稲守 孝哉

複数の人工衛星が協調して飛行する『編隊飛行技術』は、通信・観測・探査などで革新的なミッションを可能にする次世代技術。名古屋大学では、この超小型衛星の電力や質量、スペースの厳しい制約のなかで、超小型であることを活かした軌道運動と姿勢運動を関連付ける新しいアーキテクチャの研究を進めている。推進剤を使用せず磁気トルクや空気力を積極的に活用することで、長期間の編隊維持と衛星のコンパクト化を両立する独自の編隊飛行を目指している。名古屋大学の稲守孝哉准教授にお話を伺った。

- イプシロンロケット6号機打上げ失敗による宇宙実証の機会喪失を受け、今回、革新的衛星技術実証4号機の実証テーマとして再チャレンジに臨まれます。どのような思いで再チャレンジを決断されましたか。
併せて、再チャレンジするにあたって変更したことがあれば教えてください。

稲守  イプシロンロケット6号機の打ち上げによる衛星の喪失は、私たちにとって大きな衝撃でした。前号機の MAGNARO(MAGnetically separating NAno-satellite with Rotation for Orbit control) は、2017年に3名の学生ではじまったプロジェクトです。最初は宇宙に到達しない模擬衛星であるCanSatから衛星システムの基本構成を勉強し、BBM (Bread Board Model)、EM (Engineering Model) と段階を踏みながら研究開発を積み重ねてきました。その過程で、衛星の姿勢運動と分離を組み合わせ、宇宙環境を積極的に活用した編隊飛行という独自の手法を提案し、その実証を目指してきました。こうして積み重ねてきた成果が、いよいよ軌道上実証という段階に至ったときの出来事でした。

打ち上げが終わった夜、学生たちと集まり率直に話し合いました。「続けたい」と話す学生の姿から、これまでの取り組みを通じて彼らが着実に実力を身につけてきたことを強く感じました。この挑戦自体に大きな意義があったことを改めて実感し、再挑戦を希望することとなりました。

衛星については打ち上げの翌月から改善点の洗い出しをはじめ、前回得られた知見を反映して衛星システムを洗練化しました。さらに、これまでの研究成果を踏まえつつ、将来の研究の進展を見据えた新たな工学実験を取り入れるなど新規性の確保にも努めました。厳しい予算のなかでは前号機と同様のコンポーネントの導入が難しい場合も多く、太陽センサーなど一部については自ら作製を行うなど、工夫を重ねながら研究開発を進めてきました。

この再挑戦を可能にしたのは、JAXA 革新的衛星技術実証プログラムの皆様のご支援、そして困難な状況にあっても前向きに努力を続けた学生たちの力によるものです。

MAGNARO-II – Tigris (親衛星) とMAGNARO-II – Piscis (子衛星) 結合時I
MAGNARO-II – Tigris (親衛星) とMAGNARO-II – Piscis (子衛星) 分離時
MAGNARO-II 分離状態での電気動作確認
フィールドでの搭載望遠鏡による撮像試験

- 開発メンバーの入れ替わりなどもあったかと思いますが、開発において苦労した点、克服するための工夫などがありましたら教えてください。

稲守  常に新規性が求められる研究活動において、同じ衛星を再度作製することは決して容易ではありませんでした。予算を確保できるとは限らず、さらに2~3年でメンバーが入れ代わるなかで前回に加えて新しさや独自性が求められました。試行錯誤のなかで蓄積された暗黙知は、引き継ぐべき内容として認識されにくく、また基礎知識を持たない新たなメンバーが短期間で理解・実践することは困難でした。さらに、引き継いだ成果をもとに研究開発を進めること自体が、モチベーション維持の面で課題となる場合もありました。

そこで、新しいメンバーから生まれたアイデアを衛星に実装して研究成果につなげるなど、メンバーのモチベーションの維持と衛星の新規性の確保に努めました。また、設計や試験手順、異常の事例などを新しいメンバーが扱いやすい研修の形式で整理し直し、教育効果の高い課題から段階的に取り組む仕組みとすることで、新しいメンバーでも短期間で研究開発に参加できる体制を整えました。あわせて、経験のあるOB・OG の協力によるレビューの体制を構築しました。その結果、主要メンバーが入れ代わった状況でも属人化を防ぎ、前回より短期間で FM (Flight Model) を完成させることができました。今後、同様のことが生じた場合にも再挑戦可能な体制に一歩踏み込むことができたと考えています。

試験のため結合作業中のMAGNARO-II – Tigris (親衛星) と MAGNARO-II – Piscis (子衛星)
MAGNARO-IIと地上局とのかみ合わせ試験

- 今回の実証により、どのような未来を想像していらっしゃいますか。実証後の展望についてお聞かせください。

稲守  今回の実証は、推進剤を使用せずに編隊の形成・維持を行う独自の手法であり、長期間の編隊維持や衛星内部のスペースのミッションへの活用、システムコストの低減といった利点を有しています。これらの特徴を踏まえ、より実用的なミッションの検討を進めるとともに、衛星が「小さいこと」を新たな視点から捉え直していきたいと考えています。また本手法は、衛星ミッションに必要なリソースを宇宙に持っていくのではなく、軌道上の宇宙環境を活用するという考え方を、衛星の運動制御の観点から具体化する試みでもあります。衛星が「小さいこと」を突き詰めながら、将来の宇宙システムのあり方を検討していきたいと考えています。

MAGANRO-II – Piscis (子衛星) のフィールドでの試験の様子

» 編隊飛行技術試験衛星 MAGNARO-II

» 前回のMAGNAROについてはこちら