－ イプシロンロケット6号機打上げ失敗による宇宙実証の機会喪失を受け、今回、革新的衛星技術実証4号機の実証テーマとして再チャレンジに臨まれます。どのような思いで再チャレンジを決断されましたか。
併せて、再チャレンジするにあたって変更したことがあれば教えてください。

酒井  打上げ失敗は残念に思いましたが、JAXA関係者から原因究明と対策の説明、そして再チャレンジの機会をいただけたことに深く感謝しています。宇宙展開構造物の事業価値は今なお高まっており、商機も拡大傾向にあることから、再挑戦する意義は大きいと判断しました。
再チャレンジに向けた変更点としては、革新3号機当初から進展している弊社の技術開発と事業化の方向性に一層即した膜展開方式に変更しました。

松下  HELIOS-Rの開発体制は以下の通りです。

1. JAXA宇宙科学研究所（ISAS）と防衛大学校：プロジェクト全体・システム・軌道上制御／評価装置（EBOX）・運用・薄膜太陽電池
2. サカセ・アドテック：膜構造部
3. 東京科学大学：5Gアンテナ
4. JAXA宇宙探査イノベーションハブ（探査ハブ）：干渉計

    革新3号機からは人員の転籍や学生の卒業などにより体制が変化しました。膜展開方式の変更に伴う設計改良には苦労しましたが、なんとか体制を維持できました。

－ 実証後の展望（次の研究開発や事業計画等）をお聞かせください。

酒井  革新3号機から変わりませんが、HELIOS-Rで宇宙膜展開構造物を実証し、実用的なコンポーネント開発に取り組みたいと考えています。HELIOS-Rは、弊社がJAXA等と共同で取り組む月面太陽電池タワーや軽量薄膜太陽電池パドルなどの事業に向けた事前実証の意味合いを持っています。
一方、太陽電池セル自体の研究・開発も進行中で、技術成熟度が実装段階に達すれば、宇宙用・地上用を問わず、膜展開構造物・膜構造物が社会インフラとして貢献できると期待しています。

松下  HELIOS-Rには、ISASが進める外惑星探査小型実験機OPENS-0の軽量薄膜太陽電池パドルの事前実証という位置づけがあります。この世界最軽量級の太陽電池パドルはOPENS-0に不可欠なキー技術です。HELIOS-Rの実証後、OPENS-0による外惑星探査の実現を目指しています。
また、東京科学大学が主導する5Gアンテナについては、まっ平らでなくても電気的に補正して平らなアンテナとして使える、したがって柔軟で軽い膜の上で実現できる、という今回の実証技術を、HELIOS-Rよりもさらに大きい実用的なサイズに拡張する研究を進めています。
干渉計についても、深宇宙における遠距離衛星間相対航法への応用を視野に入れており、ISASが進める次世代小天体サンプルリターン計画など、複数の宇宙機による探査への貢献が期待されます。