革新的衛星技術実証4号機 実証テーマ

革新的衛星技術実証4号機 ― 3号機の志を継ぎ、宇宙実証の未来へ挑む

JAXA研究開発部門

超小型・小型衛星宇宙実証研究ユニット長 小松 雄高
超小型・小型衛星宇宙実証研究ユニット 研究領域主幹 高橋 康之

革新的衛星技術実証3号機を搭載したイプシロンロケット6号機打上げ失敗により革新的衛星技術実証3号機の宇宙実証は叶わなかった。これを受け、4号機では、3号機で選定された10の実証テーマの再チャレンジと、新たに6つの実証テーマも加わり、計16テーマが宇宙での実証に挑む。
宇宙産業の裾野拡大と人材の育成を目指す革新的衛星技術実証4号機の現在と未来を、JAXA小松雄高・高橋康之に聞いた。

- 小松さんは、2025年4月に超小型・小型衛星宇宙実証研究ユニット長になられました。ご自身の業務内容やこれまでに携わってきたプロジェクト等について教えてください。

小松  JAXAに入構してから20年強の間、複数の衛星開発プロジェクトや新しいミッションの研究に従事してきました。

入構後は、小型実証衛星1型(SDS-1)と呼ばれる100kg級小型衛星の開発において構造系を担当し、自分たちの手で設計・解析や衛星の組立て・環境試験などを行ってきました。その時の現場経験が、その後のプロジェクトや研究においても大きく役立っていると思っています。

その後は、大型衛星の開発プロジェクトを担当した後、欧州宇宙機関(ESA)に滞在して将来の地球観測ミッションの概念検討に従事し、JAXAに戻ってきてからも将来に向けた新しいミッションの概念検討を担当してきました。

2025年4月から超小型・小型衛星宇宙実証研究ユニット長に着任し、革新的衛星技術実証4号機のプロジェクトを取りまとめる立場となりました。本プロジェクトでは各担当者がプロジェクトの成功に向けて意欲的に業務に取り組んでいますので、私はプロジェクト全体を俯瞰しながら、今後の打上げ・運用に向けて大きな見落としやリスクが無いかを確認し、着実に準備を進められるように意識しています。

- 革新的衛星技術実証3号機の部品・コンポーネント・サブシステムとキューブサットはイプシロンロケット6号機打上げ失敗により宇宙実証の機会を失ってしまいました。
そのとき小松さんはどのように受け止められましたか。

小松  3号機の開発では、プロジェクトを直接担当していたわけではありませんが、将来に向けた新しいミッションの概念検討の一環として概念設計フェーズで衛星システムの設計解析を支援したり、その後の開発フェーズでは審査会・設計確認会でのレビューに参加するなど、プロジェクトの立上げから打上げ直前まで開発を支援していました。

打上げの際には、内之浦の射場で実証テーマ機関や海外宇宙機関からの来訪者に対する渉外業務に当たっており、イプシロンロケット6号機が空高く一直線に打ち上がっていく姿を見て、いよいよ3号機が軌道上で活躍するのだと胸が高鳴ったのを覚えています。

その直後、内之浦の射場から戻る途中で、ロケットの打上げが失敗したとの一報を聞き、これまでの晴れやかな気分から一転、天から地へ落ちるような衝撃を受けると同時に、実証テーマ機関の皆さんや3号機の開発に当たっていたプロジェクトメンバの一人一人の顔が脳裏に浮かびました。プロジェクトの立ち上げから2年あまり、心血を注いで開発してきたメンバの苦労を横で見ていましたので、心情を察するに余りある状況でした。

その苦境を乗り越え、3号機の再チャレンジの機会を提供するという目的も兼ねて4号機のプロジェクトを立ち上げるという決断をしましたので、このプロジェクトは是非とも成功に導きたいと考えています。

2022年10月12日に、内之浦宇宙空間観測所から革新的衛星技術実証3号機を搭載したイプシロンロケット6号機を打ち上げましたが、ロケットに異常が発生したためロケットに指令破壊信号を送出し、打上げに失敗しました。

- 今回の革新的衛星技術実証4号機は、初めての海外での打上げとなります。
なぜ変更になったのでしょうか。また、海外ロケットならではの苦労などがあれば教えてください。

高橋  4号機はイプシロンロケットによる打上げを前提に開発を進めてきましたが、2024年に発生した第2段モータ再地上燃焼試験での燃焼異常事象によって2025年度内のイプシロンロケットの打上げが困難な状況になったため、3号機の再チャレンジも含むことも踏まえ各実証テーマの実証の意義価値を維持するために、早期に打上げが可能なロケットラボ社のElectronに変更することを決断いたしました。

ロケットの変更にあたり、RAISE-4は既に衛星の設計は完了していたため、衛星の設計を変えずに新しいロケットの振動条件や機械的、電気的なインタフェースに適合できるかを短期間で確認する必要があり、時間的に非常に厳しかったのですが、チームのメンバが良く頑張ってくれました。技術的な調整においては英語での調整になるため、QAシートを作成して文字や図表等を使って記録を残し、できる限り円滑にコミュニケーションができるようにしました。それでも文化の違いによる認識のずれがいくつか発生しコミュニケーションの難しさを痛感しました。

今回の打上げロケット変更に関してはJAXAだけではなく、部品・機器・キューブサットの実証テーマ機関の皆さん、システムメーカであるMHIさんや支援業者の皆さんの多大なるご協力があり実現することができ、とても感謝しています。

革新的衛星技術実証4号機はニュージーランドのマヒア半島にあるRocket Lab社の第⼀発射施設から、Electron での打上げ

- 革新的衛星技術実証プログラムのこれまでの成果について教えてください。

高橋  これまで合計28の実証テーマに軌道上実証機会の提供を実施してきました。

その中で実証テーマ個別の成果としては、軌道上の実証成果を活用して、実証した機器の販売数が増加したり、販売のための新会社が設立されたり、実証成果を継続や発展させて後続ミッションに採用されたり、とそれぞれ成果を上げています。

革新的衛星技術実証プログラム全体としては、国際競争力の獲得・強化、宇宙産業の活性化、ベンチャービジネス促進、人材育成を目的に掲げて進めてきました。

宇宙産業の活性化という点では、まだ打上げられていない実証テーマも合わせると48の実証テーマにプログラムを利用してもらっていて、個別の成果も出ていたり、宇宙に初めて参入する企業にも利用してもらったりしていることから大きく貢献できたと思っています。ただ、国際競争力の強化についてはまだまだ十分ではないところもあると思っていますので、各実証テーマのこれからの成果に期待しています。

ベンチャービジネス促進という点では、革新的衛星技術実証プログラムにおいて、数多くのスタートアップ企業が実証テーマを担当したり、衛星システムの担当をしていただきました。既に宇宙業界ではスタートアップ企業は珍しいものではなく、色々なところで自社事業を展開し、JAXAからの業務も請負っている状況になっており、その一助を担えたのではないかと考えております。

また、人材育成という点でも、大学や高専が超小型衛星やキューブサットの実証テーマ機関として参加していることや参加した企業の中でも若手が主体となって開発を行っているところもあると聞いており、目的通りの成果が出ていると考えています。

大きなところでは本プログラム発足当時は国内では宇宙実証をビジネスとして行う企業はなかったのが、現在では民間で宇宙実証サービスを行う企業が出てきたことを考えるとプログラムそのものがビジネスモデルの実証になったのではないかと考えており、これも成果の一つと考えています。

<主な革新的衛星技術実証プログラムの成果>

革新的FPGA:NBFPGA (日本電気株式会社)
ナノブリッジFPGAの製造・販売を行う本格的な事業に向け新会社を設立して活動を開始。企業向け試作品の販売実績がある。

軽量太陽電池パドル:TMSAP(JAXA)
太陽電池パドルとしては、「DESTINY+」に、薄膜太陽電池のみであれば、「SLIM」などの多くの衛星に採用。

マルチコア・省電力ボードコンピュータ SPRESENSESPR(ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社)
SLIMのSORA-Qへも搭載され、成果を上げた。
他の企業・機関の開発する複数のキューブサットへの搭載が決定。検討中のものも複数あり。
搭載されていたMEMSマルチIMUアレイも製品化し、販売予定。

- JAXA が開発する小型実証衛星4号機(RAISE-4)の概要や開発状況等はいかがでしょうか。

高橋  小型実証衛星4号機(RAISE-4)としては、残念ながら軌道投入できなかった小型実証衛星3号機(RAISE-3)に搭載されていた実証テーマの再チャレンジの機会を提供するという方針の下、8つの実証テーマのうち、6つが再チャレンジの実証テーマになっています。そのため、設計としても実証テーマのインタフェースを踏襲するという観点からRAISE-3の設計をベースにして開発を行っております。

途中で打上げロケットの変更という大きな前提条件の見直しがありましたが、変更による影響も最小限に抑えることができ、衛星システムとしての性能を確認するシステム試験も最後の電気性能試験を終え、要求通りの性能が発揮できることが確認できました。

打上げを迎える時が近づいてきており、これまでの開発も色々大変でしたが、衛星は打上げ後が本番になりますので、いよいよ本番が近づいてきたとドキドキしております。

小型実証衛星4号機(RAISE-4)プロトフライトモデル

- 本プログラムの今後の展開について教えてください。

小松  革新的衛星技術実証プログラムでは、大学や研究機関、民間企業等による超小型の人工衛星を活用した新たな知見の獲得・蓄積、将来ミッション・プロジェクトの創出、宇宙システムの基幹的部品や新規要素技術の軌道上実証機会の提供を目的に、2015年度にプログラムを始動し、取組みを進めてきました。

一方で、昨今の宇宙産業の拡大の流れを受け、JAXAの研究開発基盤を活用した産業競争力強化を図るため、革新的衛星技術実証プログラムと複数の小型衛星関連プログラムを統合する形で、2025年度に「JAXA宇宙技術実証加速プログラム(JAXA-STEPS)」を立ち上げました。

これまで革新的衛星技術実証プログラムで進めてきた軌道上実証に向けた取組みはJAXA-STEPSに引継ぎ、官民双方に必要な将来のミッション・技術を、小型衛星を活用してクイックかつタイムリーに実証するというコンセプトのもとで、取組みを発展させていく予定です。

宇宙利用や宇宙ビジネス機会の創出に向けて、新しいミッション・技術のアイディアをお持ちの方は、ぜひJAXA-STEPSへのご参加をご検討ください。

(参考)JAXA宇宙技術実証加速プログラム(JAXA-STEPS)
https://www.kenkai.jaxa.jp/jaxa-steps/index.html

- 最後に、小型衛星産業の展望や目指す未来、そしてその中でJAXAが果たすべき役割についてお聞かせください。

小松  昨今、安価で早く開発して打ち上げられるという小型衛星の特長を活かし、国内外で多数の事業者が小型衛星を打ち上げ、宇宙利用・宇宙ビジネスへ活用する時代が来ております。

これからは、小型衛星が宇宙通信網や観測網などの社会インフラとして機能し、私たちの生活に無くてはならない存在になると同時に、その活躍の場を地球近傍から月・深宇宙へ広げていくことになると考えています。

JAXAの研究開発部門では、そのような未来を見据えて先端的な技術を研究し、素早く軌道上で実証して、社会へ実装していくことが求められています。そのために、どのようなミッション・技術を研究開発すれば社会に役立つか、どのように衛星を作ればより早く・安く・良いものができるかを日々(苦悩しながらも)考えています。

宇宙分野に限らず、様々な技術が日進月歩で進化していますので、引き続き、国内外の様々な事業者・研究者の方々とも連携し、その英知を結集しながら、社会の発展に貢献していきたいと考えています。