革新的衛星技術実証4号機 実証テーマ

再チャレンジ -民生GPU×モデルベース開発で切り拓く宇宙データ処理

三菱電機株式会社

鎌倉製作所 衛星機器第一部 技術第二課 主任 千葉 旭
鎌倉製作所 ソフトウエア技術部 技術第四課 吉田 修大

「民生GPU実証機 GEMINI」は高性能な民生用GPUを搭載し、宇宙環境での動作状況のデータを取得する。アプリケーションの開発としてモデルベース開発にも取り組み、これまで地上で行っていた地球観測衛星データの高次信号処理を衛星側で行い、迅速なデータ提供に繋げることを目指している。三菱電機株式会社の千葉氏と吉田氏にお話を伺った。

- イプシロンロケット6号機打上げ失敗による宇宙実証の機会喪失を受け、今回、革新的衛星技術実証4号機の実証テーマとして再チャレンジに臨まれます。どのような思いで再チャレンジを決断されましたか。

千葉  2020年より、若手技術者が中心となってGEMINI(cots GPU based Edge-computing for MIssion systems utilizing model based systems engiNeerIng) の開発をしてきました。ロケット打上げ失敗の際には、大きな衝撃を受けたことをはっきりと覚えています。GEMINIには先端技術が結集され、また何より開発に携わってきたメンバーの思いが沢山詰まっており、その実証機会を失ってしまったためです。

GEMINIでは軌道上での高度なデータ処理を指す「オンボード処理」と呼ばれる技術を実証するのですが、ここ数年、各国で飛躍的に発展がなされてきました。背景にあるのは、半導体技術の進化や宇宙で使用可能な高性能部品の拡充、小型衛星等による機会創出、ユーザニーズの増大と様々です。この技術発展に遅れを取るわけにはいかず、したがって開発と実証の機会は必須と考えていました。

また、当時国内外の学会に行く機会があり、オンボード処理分野や、宇宙産業の将来について数多くのインスピレーションを受け、「落ち込んでいる暇はないな」と思いました。そうした背景の中、大変ありがたいことに再チャレンジ提案の話をいただいたため、すぐに手を挙げました。社内では賛同の声ばかりですぐに理解を得られたため、4号機搭載に向けて良い開発をしていきたいと決意を新たにし、再チャレンジをすることになりました。

民生GPU実証機 GEMINI
引き渡しの様子

- 革新的衛星技術実証4号機で実証したいことはどのようなことでしょうか。

千葉  今回の実証テーマは、「民生用GPUの軌道上評価およびモデルベース開発」です。実証したいことは以下のとおりです。

一つ目は、オンボード処理です。これまで宇宙用で使われてきたプロセッサでは、高度な処理を軌道上ですることは処理時間の観点で難しかったため、先端的な民生用GPUチップを搭載することで、今まで地上のサーバで実現していた処理を宇宙空間で実施します。これにより、地上に送るデータ量を減らし、また、ユーザがプロダクトを得るまでの時間を短くし、迅速な評価や判断に繋げたいと考えています。

二つ目は、軌道上での基礎的なデータ収集です。民生用GPUチップの宇宙空間での動作実績が少ないため、放射線等の影響によって発生するエラーの種類や頻度について、評価したいと考えています。これにより、実用衛星におけるエラーの検知・対処方法等の立案や実装に繋げたいと考えています。

吉田  三つ目は、モデルベース開発の実証です。当社はこれまで、システム・ソフトウェア開発等においてモデルベース開発を進めてきており、GEMINIのソフトウェア開発にも活用しました。モデルベースによって、抽象度が高い段階でアルゴリズム開発やイタレーションの迅速化が可能となります。宇宙産業においてもモデルベース開発の必要性が高まってきています。このGEMINIにおいて開発した手法を実証し、そのプロセスの妥当性の確認や、後続の開発へ活かしていきたいと考えています。

四つ目は、ソフトウェアによる軌道上でのアップデートです。GPUでの各処理を地上からのコマンド指示で柔軟にアップデート可能にしました。スマートフォンアプリのように、ソフトウェアによって機能を簡単にアップデートできる衛星(SDS : Software Defined Satellite)が、必要になりつつあります。GEMINIでもアップデートによる機能向上を行い、SDSに向けた技術実証としていきたいです。

振動試験の様子

開発の様子

- 実証後の展望(次の研究開発や事業計画等)をお聞かせください。

千葉  GEMINIではSAR処理やAI処理といった地球観測画像の処理をする機能があり、これらの軌道上実証をした暁には、地球観測衛星・宇宙機等に成果を積極的に活用していきたいと考えています。今回の実証で、民生部品の軌道上での貴重な動作データが取れるため、エラーの検知や対応方法について、システム・サブシステム・機器といった各々への要求仕様といった形でフィードバックをしていきたいと考えています。また、オンボード処理で実現できるサービスや、その市場価値についても検討し、ものづくりだけでなく、広い視点を持ちたいと考えています。

吉田  ソフトウェアの観点でも、前述のソフトウェアのアップデートに加え、一般的なコンピュータに使用されるOSの採用、AIを活用したアプリケーションの実証など、新たな取り組みを行っています。今回の開発、及び軌道上実証で得られた知見を活用し、チャレンジングな衛星開発に繋げていければと考えています。

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