革新的衛星技術実証4号機 実証テーマ

再チャレンジ -低軌道衛星×MIMO技術で実現する920MHz帯IoT通信

NTT株式会社

アクセスサービスシステム研究所 主任研究員 五藤 大介
アクセスサービスシステム研究所 主任研究員 小島 康義

NTT株式会社は、世界初となる低軌道衛星MIMO通信の軌道上実証に挑む。920MHz帯を用いた超広域衛星IoTプラットフォームの構築を目指し、前回の打上げ失敗を乗り越えて再チャレンジに臨む同社の五藤氏と小島氏に、技術の核心とその展望を伺った。

- イプシロンロケット6号機打上げ失敗による宇宙実証の機会喪失を受け、今回、革新的衛星技術実証4号機の実証テーマとして再チャレンジに臨まれます。どのような思いで再チャレンジを決断されましたか。

五藤  革新的衛星技術実証3号機では、得られる予定の知見や成果が失われ非常に残念でした。しかし、世界初の低軌道衛星MIMO実験を必ず遂行したいという強い気持ちが、革新4号機での再チャレンジのモチベーションとなりました。
再チャレンジにおいては、短期間での再提案に伴う内容の検討および短期開発の実現の検討に苦労しました。

小島  革新3号機で予定していた実証内容に加え、高度化実証テーマを提案し3つの実証を追加しました。

  1. 周波数利用効率改善のための制御キャリアレス復調
    制御キャリアを利用しないで信号同期・等化を検証します。
  2. 端末省電力化、収容効率向上のためのダウンリンク信号送信によるIoT端末起動
    端末の起動を衛星からの信号により行い、省電力化を行います。起動信号のキャリア周波数を時間的に変化させて送信することで、ドップラーシフトの影響を軽減し、端末起動を検証します。
  3. 海外実用化のための860MHz帯受信実験
    920MHz帯だけでなく860MHzも含めた海外のIoT周波数帯の環境雑音を測定し、回線設計およびシステム設計を実施します。
低軌道衛星MIMO/IoT伝送装置 LEOMI
引き渡しの様子

- 革新的衛星技術実証4号機で実証したいことはどのようなことでしょうか。

五藤  衛星MIMO通信技術を活用し、920MHz帯を使った衛星IoTプラットフォームの軌道上実証を行います。低軌道衛星でのMIMO通信技術を軌道上で実証することにより、アンテナ数に応じた衛星通信ダウンリンクの大容量化が可能かどうか示すことを目指しています。さらに、この大容量化を活かしたユースケースとして、IoTプロトコルに依存しない伝送技術の実証を行い、地上ネットワークでは難しい広域通信の可能性について検証します。

小島  衛星MIMO通信技術は、通信路容量を推定するための通信路モデル化技術、帯域を効率的に使う制御キャリアレスMIMO復調技術、そして時間・周波数のズレによる干渉を補償する技術の実証を行います。
衛星IoT通信では、複数の地上にあるIoT端末から、衛星センシング波形キャプチャやMIMOによる大容量波形データ伝送において、衛星のブラインドビーム制御技術や異なる通信方式をまとめて復調するマルチプロトコル一括復調技術を実証します。
革新4号機の再チャレンジにおいては、MIMOの制御キャリアレスMIMO復調(帯域有効利用)技術、IoTのLPWA端末軌道技術、および920/860MHz帯干渉波解析技術を新たに追加提案しました。

LANTパターン試験の様子

開発の様子

- 実証後の展望(次の研究開発や事業計画等)をお聞かせください。

五藤  実証の実績を活かし、衛星システムへの実用化に向けて検討を行います。

小島  衛星MIMO通信技術においては、衛星通信システムの空間多重化を実現することで、超高速伝送の実現を検討します。また商用通信衛星の通信容量の増大を実現することで、通信システム全体のコスト低減に貢献したいと考えております。
さらに、IoT インフラの革新的プラットフォームの基本方式を確立することで、海洋やルーラルエリアを対象とするセンサ情報収集サービスなど、新たな産業の創出に貢献したいと考えております。

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