革新的衛星技術実証4号機 実証テーマ

次世代MPUとオンボードAIで挑む軌道上実証 -AIRISが描く未来の宇宙機器開発

三菱重工業株式会社

防衛・宇宙セグメント 航空機・飛昇体事業部 電子システム技術部
 電子機器設計課 主席チーム統括 玄蕃 恵

次世代宇宙用MPU「SOISOC4」とオンボードAIチップを組み合わせ、軌道上での物体検知からAIモデルの再学習までを一貫して実証する「AIRIS」。サブシステム全体をEnd-to-Endで設計・開発するという新たな挑戦に取り組んだ玄蕃氏に、開発の工夫や今後の展望について伺った。

- ご自身の業務内容について教えてください。

玄蕃  人工衛星に搭載するミッション機器のハードウェア設計業務を担当しています。専門は電子回路ですが熱、構造、耐放射線設計および試験などにも取り組んでいます。

- 今回、革新的衛星技術実証4号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。

玄蕃  AIRISには2つのテーマがあります。
一つ目は、次世代宇宙用MPU(SOISOC4)の軌道上実証です。SOISOC4は2025年度に宇宙用部品としての認定を取得し、今回が初めての軌道上環境における評価となるため、貴重なデータが得られることが期待されています。
二つ目は、SOISOC4とオンボードAIチップを組み合わせ、軌道上で船舶を検知し、必要なデータのみをダウンリンクするという一連の処理を実証することです。更に、取得したデータを利用して再学習し、オンボードAI処理機能のAIモデルを更新する、というサイクルが成立することを軌道上で実証します。

SOISOC活用オンボードAI物体検知機 AIRIS
(カメラは東京理科大学殿との共同研究成果)
温度サイクル試験の様子

- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。

玄蕃  サブシステム系の全体を担当できる点に魅力を感じ、応募を決めました。
通常の業務では、大規模なシステムからブレークダウンされた顧客仕様に基づき、特定の要求事項をハードウェアの形で実現する役割を担っています。一方、AIRISではカメラによる画像撮像からAI処理、テレメトリ生成に至るまで、サブシステム全体をEnd-to-endで設計・開発するという、新たな挑戦に取り組むことができるため、新たなチャレンジとなると捉えて応募しました。

- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。

玄蕃  オンボードのAI処理を実証したいという潜在的に社内にあったニーズと革新的衛星技術実証プログラムの公募タイミングとがちょうど合致したため、応募に向けて社内方針がまとまりました。

振動試験の様子
ソフトウェア機能試験の様子
引き渡しの様子

引き渡しの様子

- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。

玄蕃  消費電力の制約があるため、使わない機能のオン・オフをする、動作クロック数を低くするなどの消費電力を抑える工夫をしました。また、アップリンクのデータ量に上限があるためAIモデルの更新をする機能では、AIモデル全体を更新するのではなく、物体の検知効率改善に特に効果がある箇所を選び部分的な更新をすることでデータ量を減らす工夫をしました。

- 実証後の展望(次の研究開発や事業計画等)をお聞かせください。

玄蕃  AIRISに割り当てられる時間の制約、電力の制約、質量・寸法の制約がありますので、実証で得られる知見を踏まえてより顧客ニーズに寄り添った開発を継続することができればと考えております。


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