研究の概要
人工衛星にはその目的に応じて様々なミッション機器が搭載されます。例えば、環境観測衛星では、各種センサやカメラが、通信衛星ではアンテナや通信機器がミッション機器となります。一方、人工衛星には、軌道上において、その運用を行うために 必要不可欠な基本共通機器(バス機器)を搭載しなければなりません。その一つとして、電源機器があります。電源機器が衛星質量に占める割合は大きく、従来の化学推進衛星では10~15%、最新のオール電化衛星では20~30%にも達します。
電源機器は人工衛星の運用を支える大事な機器ですが、限られた打ち上げ能力や打ち上げコストを考慮すると、できる限りミッション機器を多く搭載させる必要があります。そこで、電源機器の小型軽量化が期待されています。 JAXAでは、電源機器の一つである電力制御器(Power Control Unit:PCU)において、周回衛星バス用50Vおよび静止衛星バス用100V電力制御器を開発し、従来機器から質量半減を達成しました。 これらの成果はだいち2号、いぶき2号、ひまわり8, 9号等多数の人工衛星に適用されています。
現在は、更なる小型軽量化を目指し、デジタル制御技術や次世代パワーデバイスを適用した電力制御器の開発に取り組んでいます。
研究成果(より詳細な研究内容)
PCUは太陽電池による発電電力を制御し、バッテリの充放電や各機器への電力供給をコントロールしています。人工衛星のPCUは信頼性の観点からアナログ回路のみで構成されることが多く、コンピュータによるデジタル制御の適用は少ないのが現状です。 しかしながらデジタル制御は、アナログ回路では実現が難しい、温度変化に影響を受けない正確な同期制御、高度な演算や判定を行うことが可能であり、小型軽量化のみならず、これまでにないシステムを構築することが可能になります。
また、PCUの主要部品であるパワーデバイスを従来のSiから更新し、GaNやSiCといった化合物半導体を適用する研究を進めています。これら化合物半導体は電気特性に優れており、電力変換効率や実装密度の向上により、PCUの小型軽量化が期待されます。 特にGaNはスイッチング特性に優れていることから、スイッチングスピードの高速化が可能であり、MHzスイッチングの適用を目指しています。これにより、スイッチングに伴う電流の増減振幅が小さくなることで、平滑化回路を小さくすることが可能となり、PCUの小型軽量化に繋がります。 しかしながら、スイッチングスピードの高速化に伴い、回路中に生じる高周波ノイズが増加することが分かっており、回路設計、実装設計によるノイズ低減に取り組んでいます。
発表論文等
- M. Iwasa, H. Kusawake, S. Shimada, A. Ishii, Y. Kikuchi, K. Aoki, J. Shimizu and T. Ito, "LIGHTWEIGHT POWER CONTROL UNITS AND POWER DISTRIBUTION CONTROL UNIT FOR SATELLITES", the journal of space technology and science, vol.28, no.1, pp.30-36, 2013.
- 岩佐稔,"次世代パワーエレクトロニクスの宇宙機電力制御システムへの応用",第3回NEDOパワーエレクトロニクスシンポジウム,大手町フィナンシャルシティ,2017年2月.
- M. Iwasa and H. Kondo, "Application Study of Power Control System with Compound Semiconductor devices for Future Commercial Satellites", IEICE Technical Report, vol.118, no.114, EE2018-14, pp.83-86, 2018.
- 近藤大将,岩佐稔,"MHzスイッチング電源の宇宙機適用検討",第62回宇宙科学技術連合講演会,1L01,朱鷺メッセ,2018年10月.