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支える研究 宇宙活動拡大のための機構マテリアル基盤技術の高度化 天体表面での活動における耐粉塵環境技術

月、惑星やその衛星など様々な天体の探査においては、真空や微小重力と言った通常懸念される宇宙環境の他にその天体特有の環境があります。それらの天体の探査において使用される機構部品には、その極限的な環境下でミッション期間を全うして正常に動作することが要求されます。例えば、月面などの天体表面での探査においては、砂塵の影響が問題となります。特に月面環境においてはレゴリスと呼ばれる砂が大量に存在し、月面上で駆動する機器に入り込んだ場合には、重大な問題となる可能性があります。

本研究では大きく分けて3つの課題についての研究を実施しています。一つは、①環境対応として、月面などの粉塵環境において、宇宙用の駆動機器をまもるための粉塵シールの研究です。月面を走行するローバの主軸などにおいて、その先のモータや減速機、電子機器をまもるための回転軸シールや粉塵に接地して使われる軸受をまもるための軸受用シールの長寿命化の研究を実施しています。また、②粉塵の付着の防止・除去に関する研究も進めています。もう一つは、③ローバの車輪などにおける粉塵の挙動把握です。着陸やローバの移動時に巻き上げられる粉塵の飛散挙動を理解・予測することにより、その影響を評価します。これらの研究を進めることにより、月面などの天体表面での活動における宇宙機の信頼性向上と長寿命化に取り組んでいます。

JAXA's 2019年7月号

研究成果の一例

主軸用粉塵シールの研究開発

ローバの主軸など、確実な密封が必要なところに使う粉塵用シールとして、いくつかのシールの研究開発を行っています。その一つとして、メカニカルシール(図1)の研究を行っています。

図1 メカニカルシールの外観

レゴリスが回転軸と固定部の間のシール面に入っても、摩耗してシール性が落ちないように、硬くかつ摩擦が小さい材料やコーティングを選定・開発しています。また、シール性を維持しつつ、回転に必要な力がなるべく小さくなるよう、押しつけ力や材料を最適化しています。図2は、真空粉塵環境下で温度を低温側に変化させながら行った際のトルクの推移を示しています。通常使われる樹脂製のシールに比較して、温度の影響を受けず低トルクで推移しているのが分かります。試験後の粉塵の侵入も見られませんでした。

図2 メカニカルシールのトルクの推移(他のシール方法との比較)

軸受用粉塵シールの研究開発

レゴリスに直接触れる軸受用の簡易シールとして、 カラーと呼ばれるリング状の樹脂材料を用いるタイプと、フェルト材を用いるタイプを研究しています。カラーシールについては、樹脂カラーがしっかりと軸受端面を押さえてシールできる形状を設計し、押しつけ力の最適化を図りました。フェルトシールは、フェルト材を宇宙用に使う新しい試みです。高いシール性を確保しながら少ない抵抗で回ります。