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プロジェクト等 宇宙太陽光発電システム(SSPS)の研究 宇宙太陽光発電システム(SSPS)について

これまで、海外及び日本で検討されてきたSSPSの歴史、SSPSの設計例、再生可能エネルギーとしてのSSPSの位置づけ、利点と課題などについてまとめています。

SSPSの歴史(これまでに実施された概念検討)

SSPSは1968年に米国のPeter. Glaser博士が提唱したのが始まりです。宇宙空間に巨大な太陽電池とマイクロ波送電アンテナを配置し、太陽光エネルギーを電気に変換した後にマイクロ波に変換して地球上に設置した受電アンテナ(レクテナと呼ばれます)へ送電、 地上で電力に再変換し、エネルギー源として用いる構想です。究極的には化石燃料に頼らない社会を構築可能なアイデアとして提唱されました。アポロ計画が推進されていた時代で、大規模宇宙構造物を有人で建設する方法が検討されました。 また、その数年後には第1次オイルショックが発生したこともあり、このアイデアは社会から注目を集めました。

Glaser博士のアイデアを基礎として、その後、米国、欧州では様々なタイプのSSPSコンセプトがまとめられましたが、最近においては、日本以外の各国は、財政上の問題や政策上の方針などにより、国としての継続的な研究は行っていないという状況にあります。

日本では、1980年代からSSPSに関する組織的な研究活動が開始され、90年代には宇宙科学研究所(現:宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)を中心とした大学及び国立研究所の研究者により1万kW級の「SPS2000」の設計が、2000年代に入りJAXA及び経済産業省により100万kW級のSSPSの検討が行われました。

100万kWマイクロ波SSPSモデル
2000年代にJAXAが中心となって検討したコンセプト。2枚の反射鏡と太陽電池及びマイクロ波送電装置からなる。

再生可能エネルギーとしてのSSPS

太陽からの日射エネルギーを用いるSSPSは、再生可能エネルギーの一つとして分類できます。以下の図は、SSPSのエネルギーの流れをイメージで示したものです。 一天文単位(約1億5千万km)の距離にある太陽から、多量の日射エネルギーが地球に届きますが、地球に照射しなかった日射エネルギーの一部を宇宙空間において無線(マイクロ波もしくはレーザー)に変換し、地表に届けることで、 有効に利用しようというものが「SSPSの歴史」にて説明したすべてのSSPSコンセプトに共通する点です。

太陽の日射エネルギーを利用するSSPSのイメージ図
(太陽、地球の大きさや距離の縮尺等がデフォルメされていることにご注意ください)

日射エネルギーを直接的、あるいは間接的に利用する再生可能エネルギーとして、地上太陽光発電、水力、風力、波力、バイオマス等があります。

下図に、日射エネルギーからスタートして、それぞれの再生可能エネルギー源につながるエネルギーフローを示しています。これらの再生可能エネルギー源の利用は、歴史的には、薪・炭(バイオマス)、水車による食物加工、風車による揚水や灌漑等からスタートしています。 電力としての利用は、水力(発電用ダム)が19世紀から始まっており、近年では、地上太陽光発電、風力等の技術が特に2000年代以降に大きく伸長し、導入量も飛躍的に増加しつつあります。

2004年→2013年→2014年の世界の再生可能エネルギー発電容量増加 800GW→1578GW→1712GW

参考:自然エネルギー世界白書2015

日射を源とする各種再生可能エネルギーのエネルギーフロー

化石燃料の多用により大気中の二酸化炭素濃度が上昇しており、気候変動(地球温暖化)に対し深刻な影響を与えることが懸念される現在、二酸化炭素排出量が少ない再生可能エネルギーの重要性は高まっています。SSPSの研究開発は、『人類が保有している、これらの日射を源とする再生可能エネルギー技術に、将来的に新たな選択肢を付け加える』ためのものと位置づけられます。

SSPSには再生可能エネルギーとしての特徴のみならず、無線エネルギー伝送を用いているため宇宙からの送電先の切り替えが可能であること、天候や昼夜の影響による発電変動が小さいこと、等の利点が存在します。 一方、後述するように複数の課題が存在しており、それらの解決には長期に渡る研究開発を継続していく必要があります。その期間には既存の再生可能エネルギー技術のさらなる進歩や、それらの発電変動を緩和するための蓄電等の技術の進歩と社会実装が見込まれる中で、 JAXAではSSPSの研究開発の進め方そのものについての検討を行っています。

補足

石炭や石油、天然ガス等の化石燃料も元々は日射エネルギーが古代の植物等に蓄えられ、長い年月をかけ、炭素あるいは炭化水素化合物の形で地層内に堆積したものですが、それらは、現在、蓄積されるスピードよりはるかに早く消費されていると考えられるため、通常、再生可能エネルギーとして取り扱われることはありません。また、地中深くの熱エネルギーを利用する地熱発電も再生可能エネルギーの一つとして位置づけられますが、日射エネルギーを利用していないため、ここでは触れていません。

SSPSの利点と課題

SSPSの利点と課題を整理したものを以下に示します。

  SSPSの利点 SSPSの課題
技術
  • 地上の再生可能エネルギーと比較して、昼夜、天候の影響を受けにくく、エネルギー源として安定している。
  • 強度の高い太陽光(地上の約1.4倍)を利用できる。
  • 電力を必要としている地域へ柔軟に送電できる。
    (地上送電網整備の負担が軽減される。)
  • 宇宙空間への大量輸送技術、大規模宇宙構造物の構築技術、軌道上において長期間にわたり運用・維持(補修)する技術。
  • 高効率で安全な発電、送電、受電技術。
安全性
(環境影響等)
  • 発電時に温室効果ガスや廃棄物が発生しない。
  • 発電衛星は地上における自然災害(地震等)の影響を受けない。
    (地上受電サイトは複数建設することで影響を少なくできる)
  • マイクロ波/レーザーが、人の健康、大気、電離層、航空機、電子機器等へ悪影響を及ぼさないよう配慮する必要がある。
  • スペースデブリ、太陽フレア等による損傷や破壊への対処。
  • 運用寿命を終えたSSPSの安全な廃棄、もしくは再利用。
経済性
  • 発電時に燃料費を必要としない。
  • 化石燃料と異なり、紛争や需給逼迫に伴うエネルギー価格急騰の影響を受ける心配が少ない。
  • 宇宙への輸送費をはじめ、建設、運用・維持、廃棄に関わるコストを他のエネルギー源と競合できるまで下げる必要性がある。
  • 周波数(マイクロ波の場合)の確保。軌道位置、地上受電サイトの場所の確保等。

宇宙基本計画

宇宙基本計画(令和2年6月30日)では、

(5)産業・科学技術基盤を始めとする宇宙活動を支える総合的な基盤の強化
②主な取組
vii)宇宙太陽光発電の研究開発
エネルギー問題、気候変動問題、環境問題等の人類が直面する地球規模課題の解決の可能性を秘め、宇宙構造物等の給電システムへの応用も期待できる宇宙太陽光発電システムの実用化に向け、宇宙太陽光発電システム研究開発ロードマップ等に基づき、宇宙実証実験フェーズへの移行の検討も含め、着実に取組を進める。その際、宇宙太陽光発電の研究開発は、IoTセンサやドローン、ロボット等へのワイヤレス給電等、地上の技術への派生も期待できることに留意する。

と記されています。

内閣府宇宙戦略室 宇宙基本計画