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支える研究 宇宙活動の安全確保 スペースデブリの除去推進系の研究

研究の概要

スペースデブリへの接近、その捕獲に続く、一連のデブリ除去シーケンスの最後のステップとして、捕獲後のデブリを投棄するための軌道変換(軌道降下)があります。ここでは、この軌道変換に使われる推進系の研究を紹介します。除去により宇宙環境の改善効果が期待できるようなデブリは質量が大きく、また、デブリ除去システムは事業継続性の観点からなるべく簡素であることが望ましいため、効率の良い推進系が必要となります。

デブリ除去推進系の第一候補となるのが、高効率な宇宙推進系として世界で普及しつつある電気推進です。電気推進とは、燃焼等の反応を利用する化学推進に対して、電気や電磁気の力を利用して推力を得る推進系を指します。化学推進と比較して推力は小さいものの排気速度が大きいため、時間をかければ少ない燃料で大きな力積を得ることができます。小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」や超低高度衛星技術試験機「つばめ」で使われているイオンエンジンも、この電気推進の一種です。本研究では、どのようなタイプの電気推進がデブリ除去にとって最適であるかの検討を進めるととともに、その有力な候補であり、技術試験衛星9号機(ETS-9)プロジェクト でも開発中のホールスラスタについて、「長寿命・低コスト」という目標を達成するための研究を進めています。図1は、その実験の様子の一例です。

図1 デブリ除去用電気推進実験の様子

また、デブリ除去のさらなる低コスト化を目指して、エレクトロダイナミックテザー(EDT)の研究も行っています。EDTとは、導電性の長いひも(テザー)に流れる電流と地球磁場との干渉により生じる電磁気力をブレーキ力(軌道を降下させる力)として利用する推進系(図2)であり、燃料不要という大きな特徴を持ちます。本研究では、2017年にこうのとり6号機にて実施した軌道上実験(KITE)の成果も活かし、EDTシステムとその要素技術の研究を進めています。

図2 EDTを用いたデブリ除去の概念図

これらの推進系は、既存デブリの除去用としてだけでなく、ミッション終了後に人工衛星等が自ら軌道降下するためのPMD(Post Mission Disposal)用としても重要です。その一例として、宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)のもと、民間事業者と協力し、EDTを利用したPMD装置の技術実証に向けた活動も進めています。

研究実績

発表論文

  • T. Morishita, R. Tsukizaki, et al., “Effect of nozzle magnetic field on microwave discharge cathode performance,” Acta Astronautica, 2019, DOI: 10.1016/j.actaastro.2019.08.025.
  • 張科寅, 渡邊裕樹, ほか, “デブリ除去・SLATS後継機向け1kW級ホールスラスタの開発,” 2019年度宇宙輸送シンポジウム, 2020, STEP-2019-044.
  • Y. Ohkawa, S. Kawamoto, et al., “Review of KITE - Electrodynamic Tether Experiment on HTV-6 -,” Acta Astronautica, 2020, DOI: 10.1016/j.actaastro.2020.03.014.
  • T. Sato, S. Kawamoto, et al., “Performance of EDT system for deorbit devices using new materials,” Acta Astronautica, 2020, DOI: 10.1016/j.actaastro.2020.01.029.
  • Y. Ohkawa, T. Okumura, et al., “Charging Behavior of the H-II Transfer Vehicle by Active Electron Emission,” IEEE Transactions on Plasma Science, 2019, DOI: 10.1109/TPS.2019.2915819.
  • T. Okumura, D. Tsujita, et al., “Observation of Electron Density Depletion Due to Maneuver Operation of H-II Transfer Vehicle,” Journal of Geophysical Research, 2019, DOI: 10.1029/2018JA026233.

特許(公開)

件名 出願人 出願日 番号
宇宙用テザー JAXA、
日東製網株式会社
2005年11月10日 第4543203号
特開2007-131124
スペースデブリの軌道降下方法、軌道降下システム、
及び、人工衛星の軌道変換方法、軌道変換システム
JAXA 2014年6月13日 第6473960号
特開2016-2813
網、テザー収容装置及び網の製造方法 JAXA、
日東製網株式会社
2018年10月19日 特開2019-90146

外部資金

  • 科研費基盤(B)「ダイヤモンド半導体を用いたパッシブな宇宙用電子放出源の実現可能性評価」
    研究代表者:大川恭志、期間:2016-2019年、課題番号: 16H04595