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REMOVAL of SPACE DEBRISスペースデブリの除去

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スペースデブリの除去とは、人工衛星が飛行する地球の周りの
軌道環境を維持するための活動の一つです。
ここでは、スペースデブリ問題の概要と対策についてまとめます。

スペースデブリとは

スペースデブリって、そもそも何だろう?
スペースデブリの問題点について。

スペースデブリ(英space debris)とは、地球周回軌道に存在する使用されていない人工物で、役目を終えたロケットや人工衛星、あるいはこれらから分離した破片などの物体のことです。

スペースデブリはおよそ時速28,000kmで地球の周りを飛び、例えば直径1.3cmのアルミの球(質量約3g)がこの速度で衝突すると、厚さ5cmのアルミ板をも貫通するエネルギを持っています。(参考:NASA Hyper Velocity Impact Team factsheet等)

もし、スペースデブリが人工衛星に衝突すると、部品が故障して人工衛星の機能を喪失させたり、人工衛星を構成する部品が壊れて破片となり新たなスペースデブリを発生させることもあります。したがって、運用中のロケットや人工衛星はスペースデブリなどに当たらないようにスペースデブリを見張り、問題のあるスペースデブリに当たりそうなら避けなければなりません。

人工衛星がスペースデブリを避けるときには燃料を噴射して自分の軌道を一時的に変え、当たりそうだったスペースデブリを避けた後に、また燃料を使って元の軌道に戻ります。国際宇宙ステーション(ISS)を除き、一般的な人工衛星にはガソリンスタンドのような燃料補給ができる場所も方法も今は無いので、スペースデブリを避けると持っている燃料が減り、人工衛星の寿命がその分短くなります。最近、スペースデブリが運用中に当たる可能性があるという警報を受けて避ける運用をすることが増えてきています。国際宇宙ステーションはこれまでに30回デブリを避ける運用をしています(2022年5月現在)。

スペースデブリの大きさは様々であり、一般的に小さいものの方が多く存在しています。見える大きさのもの(大体10cm以上)は避けることで衝突を防げますし、ある程度以下(大体1mm以下)のデブリは衝突したとしても、機能を喪失させることがないように防御する技術が研究されていますが、数cm程度の大きさのスペースデブリは衝突回避も防御もできない、言わば危険なスペースデブリと言えます。危険なスペースデブリが増えないように、発生源となる大型のデブリを早期に除去することが大事と考えられています。

スペースデブリを避けるのも、危険なデブリが増えないように大型のデブリを減らすのもコストのかかる活動ですので、バランスをとりながら人類が宇宙を継続的に利用するために、スペースデブリを増やさず、軌道環境をよりよくすることが大事です。

赤道上空から見たカタログ物体分布の様子
※カタログ物体を点として表示(実際の大きさではない)

スペースデブリの現状と課題

スペースデブリは年々増加の傾向にあり、
今後も増えると予測されている。
何故増えるのだろう。そのメカニズムについて。

スペースデブリの現状

現在のスペースデブリの状況は、観測できる使用済みロケット上段・衛星や破片などだけを見ても、年々増加しています。
米国は地上観測網により低軌道で代表長が約10cm以上、静止軌道で約1m以上の物体を追跡しており、軍事衛星等を除いて世界にそれらの軌道情報を公開しています。図に米国で公開されているカタログ物体(米国で識別され、軌道などが確認されている物体)の数の推移を示します。年々増加している様子が分かります。

地上からの観測やモデル化(ESA MASTER8など)により代表長1cm以上のデブリは50~90万個、1mm以上のデブリは1億個以上あると推測されています。また、1957年以降、物体の打上げは約6,000回、軌道上に存在する物体から何らかの物体が放出される異常事象は300回以上(うち高速で物体が放出される爆発現象は200回以上)、カタログ物体同士の衝突5回が確認されています。(参考:NASA Orbital Debris Quarterly News Volume 25, Issue 4、ESA’S ANNUAL SPACE ENVIRONMENT REPORT等)。

軌道上に複数機(100~10,000機以上)の衛星を配置し、通信や地球観測を行う衛星コンステレーション計画が各国で実施されようとしています。米国のSpace-X社が実施しているSTARLINK計画が有名です。STARLINK計画の衛星はすでに2,352機が軌道上で運用中で(2022/5/20現在)、最終的に42,000機打ち上げる計画です(参考:国研 情報通信研究機構 情報通信海外技術動向 動向報告書 「米衛星コンステレーション計画についての動向調査」)。図の水色の線は人工衛星の物体数を表しており、これらコンステレーション衛星打上げの影響により2019年ごろから急激に増加しています。
1957年のスプートニクから人類が打ち上げた物体数がおよそ1万個であり、今後数年間でこれまで人類が打ち上げた物体数を大幅に上回る衛星を打ち上げるコンステレーション計画が複数あります。軌道環境は今後急速に変化すると考えられています。

Monthly Number of Cataloged Objects in Earth Orbit by Object Type as of 5 January 2021. This chart displays a summary of all objects in Earth orbit officially cataloged by the U.S. Space Surveillance Network. "Fragmentation debris" includes satellite breakup debris and anomalous event debris, while "mission-related debris" includes all objects dispensed, separated, or released as part of the planned mission.
出典 : NASA Orbital Debris Quarterly Report Volume 25, Issue 1 February 2021

スペースデブリが増加する
メカニズム

スペースデブリは宇宙開発活動と軌道上での衝突等で増加します。
ロケットや人工衛星の打上げにより軌道上物体質量は増加します。一方、低軌道に既に存在する物体は大気抵抗等により徐々に軌道高度が低下しやがて大気圏に再突入するものもあり、再突入すると、軌道上物体質量は低減します。増加と低減の差し引きで軌道上物体質量が変化します。図は軌道上物体の質量の推移を表しており、右肩上がりで年々増加していることがわかります。
軌道上物体の数は、スペースデブリの現状の項で示したように、さらに増大しています。すでに存在する軌道上物体同士が衝突したり、軌道上物体単体が何らかの要因で破砕したりすると、物体数は増加します。軌道上物体総数が急激に変わっている年はそのような衝突や破壊があったことを表しています。2007年の物体数の急激な増加は中国による衛星破壊実験の結果、2009年の急激な増加は運用中の衛星と運用終了後に軌道にとどまったままになっていた衛星との衝突によるものです。2021年にロシアにより実施された衛星破壊実験では2022/5/20現在で1,700個以上の破片を発生させています。

Mothly Mass of Objects in Earth Orbit by object Type as of 5 January 2021.This chart displays the mass of all objects in Earth orbit officially cataloged by the U.S. Space Surveillance Network.
出典 : NASA Orbital Debris Quarterly Report Volume 25, Issue 1 February 2021

スペースデブリ数の将来予測

スペースデブリは仮に宇宙活動が停止したとしても増加すると考えられています。
世界の13宇宙機関(日米欧等)が参加しているIADC(国際機関間スペースデブリ調整会議)において、今後打ち上げる宇宙機が運用終了後に軌道を離脱するPost Mission Disposal(PMD)の実施率90%を達成してデブリを出さない努力をしたとしても、既存のスペースデブリの衝突等によりスペースデブリ環境が悪くなることは多くの宇宙機関で共有されています。(現状の25年以上の軌道上寿命を有する衛星のPMD実施率は20-40%程度であり、将来の実施率が90%との仮定は、かなり楽観的な予測です。 参考:Kawamoto, et. al “Evaluation of Space Debris Mitigation Measures Using a Debris Evolutionary Model”, Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan Vol. 16, No. 7, pp. 599-603, 2018 DOI: 10.2322/tastj.16.599)図にPMD実施率90%を仮定した場合の六宇宙機関により提示されたデブリ環境予測結果を示します。平均的にデブリの数が増えている傾向が示されています。したがって、最低限、現状のデブリ数を維持するとしても、PMDだけでは不十分と考えられます。

出典 : IADC-12-08, Rev. 1, Stability of the Future LEO Environment, January 2013.

次の図はPMDの順守率とその将来への影響をシミュレーションした結果を表しています。PMDを全くしない場合が赤線で200年間で軌道上物体数が4.3倍に増えることを示しています。PMD順守率が90%あったとしても、200年間で約2.1倍、PMD順守率が90%、且つ、将来に単体での破砕が起きないと仮定しても200年間で1.4倍になることを示しており、PMDだけでは軌道環境を維持することは困難であることを示しています。

Figure 4. Future population projections based on different 25-year 25-year rule compliance levels and accidental explosions. Projection results are based on averages of 100 Monte Carlo simulations each.
出典 : NASA orbital debris Quarterly Report Volume 24, lssue 1 February 2020.

これらはすべて観測可能な大きさ(大体10cm以上)のスペースデブリについての予測です。観測できない危険なスペースデブリの発生や増加の詳細なメカニズムは明確にはなっていません。観測できないスペースデブリの数は観測可能なものより大幅に増えている可能性も指摘されています。特に高度900km-1,000kmでは観測可能な物体数が増加しているので、観測できないスペースデブリがさらに増加している可能性が指摘されています。

スペースデブリ問題への対策

スペースデブリ問題には「観測・予測」「発生低減」「除去」の
三つの対策が重要。

様々なスペースデブリ問題への
対策

スペースデブリ問題への対策は、スペースデブリ環境の観測・モデル化・予測と発生低減が重要です。

01.スペースデブリ環境の観測・モデル化・予測

スペースデブリ環境の観測は現状の把握ならびに発生低減のための衝突回避にも利用されます。また、モデル化し予測することは、どのような手段が環境改善に効果的かを理解することにもつながる技術でもあります。

02.発生低減

スペースデブリの発生低減は「発生の抑制」、「衝突回避・防御」、「積極的デブリ除去」の3つの手段が考えられ、これらを組み合わせて発生低減させることが研究されています。

A.発生の抑制

発生の抑制とは、例えば衛星が運用終了したのちに、軌道にとどまらず、運用軌道から離脱するなど、将来の衝突事象や破砕現象が起きる確率を減らすというものです。運用終了後に軌道から離脱する方法はPost Mission Disposal(PMD)と呼ばれており、PMDの実施は環境改善に非常に重要であると考えられています。 また、運用終了後に破砕が起きないように、燃料タンク等の圧力容器の圧力を下げたり、充電池の充電電力を下げたりすることも破砕現象が起きる確率を下げ、発生の抑制に重要です。

B.衝突回避・防御

運用中の衛星はデブリと衝突することを避けるべきですが、自分の衛星に衝突するデブリを衛星で自動的に検知することは現在の技術では不可能です。したがって、地上からの観測結果等により、デブリが衝突する可能性が高い場合に衝突回避をすることが重要です。米国国防総省戦略軍統合宇宙運用センターが代表寸法10cm以上の衝突しそうな物体がある場合に衝突しそうな衛星運用者に対してアラートを出しています。衛星運用者はそのアラートを基にさらに詳細に軌道を解析し、必要であれば運用している衛星に衝突回避をさせます。JAXAが運用している衛星では概ね年間5回程度の衝突回避運用を実施しています。国際宇宙ステーション(ISS)は1999年から2022年までの23年間で30回の衝突回避運用を実施、軌道を一時的に変更しています。
また、代表寸法1mm以下の微小なデブリが衝突したとしても、衛星の機能を喪失しないよう、防御する技術も重要です。宇宙飛行士が活動している宇宙ステーションはデブリバンパと呼ばれるデブリ防御壁で覆われており、微小なデブリの衝突による事故を防ぐ設計がされています。

C.積極的デブリ除去(ADR)

積極的デブリ除去(Active Debris Removal, ADR)とは、軌道上に既に存在するデブリを専用衛星等を用いて軌道から取り除くことです。
スペースデブリ数の予測でも紹介しているように、例え今後打ち上げられる衛星がほとんどすべて(例えば90%の割合で)PMDを実施し、軌道から離脱し、既存のデブリの単独破砕事象が起きないとしても、すでに存在しているスペースデブリ同士の衝突により破砕が発生し、デブリが増えていくことが予測されています。このようなデブリ同士の連鎖衝突によりデブリが増えていく現象のことをケスラーシンドロームと呼んでいます。このような状況の場合、ADRによって既存のデブリの数、質量を低減させるしか環境を改善することはできません。
一般的に空間密度の高い軌道にあり、重量も大きい物体を除去することが将来の軌道環境改善に役立つとされています。これは空間密度が高いとそれだけ他のデブリとの衝突事象が発生する確率が高いこと、また、ひとたび衝突し破砕した場合の破片の数は質量が大きいほど増えることが理由です。

スペースデブリの除去

スペースデブリ除去は本当に効果があるのだろうか。
除去効果的の高いスペースデブリについて。

積極的デブリ除去(ADR)の
効果予測

図は衝突確率が高く、破片を多数発生させる可能性のある大型デブリを年間1~5個ずつ除去した場合の軌道上のデブリ数の推移予測結果を表しています。このように推移モデルを用いてデブリ除去対象やデブリ除去のミッション要求についても検討しています。この推移モデルでは年間5個ずつ大型デブリを除去すると軌道環境が改善する様子が示されています。ADRの効果予測は様々な前提条件に基づいた様々な予測計算結果が報告されていますが、おおむね年間5体~10体の混雑軌道に存在する大型のスペースデブリを除去すると、現状とほぼ同様な軌道環境が維持されることが予測されています。(参考文献:[Liou, 2011][Lewis, 2012][Kawamoto, 2020]等)

参考文献
図:過去8年間の平均で衛星の打上げが続き、25年以上の軌道寿命を持つものが90%のPMD順守率であると仮定した場合の、ADRの効果を表しています。楽観的な90%PMD順守率が維持されたとしても年3機以上のADR(青線)でようやく軌道上の物体数が維持されることが示されています。出典 : [Kawamoto, 2020]

除去効果の高いスペースデブリ

これまで述べているように、軌道環境の改善には寸法も重量も大きい物体の除去が有効です。また、同じような軌道に多数の物体があるような混雑している軌道にある物体の除去がより有効であることもわかっています。このような考え方を基に、高度2,000km以下のいわゆる低軌道領域のデブリ環境改善に資する上位50個のデブリが様々にリスト化されています。図はこれら50個のデブリの軌道要素(軌道傾斜角と軌道高度)で分類したものです。軌道傾斜角、軌道高度ごとに偏りがあることが分かっており、これらを集中的に除去できれば効率よく軌道環境を改善できると考えられています。

Figure 2. The top 50 statistically-most-concerning objects in LEO are largely within three groups ; the two largest groups are Cluster 850 (ellipse 1) from the MCMA, and massive derelicts in sun-synchronous orbit (ellipse 2).[12]
出典 : D. McKnight, et. al., “UPDATING THE MASSIVE COLLISION MONITORING ACTIVITY-CREATING A LEO COLLISION RISK CONTINUUM”, Proc. 8th European Conference on Space Debris (virtual), Darmstadt, Germany, 20-23 April 2021.