オンボードPPP技術の概要
衛星測位システムについて
衛星測位システムは、人工衛星を利用して地上の位置を計測するためのシステムであり、カーナビやスマホの現在地を計算する機能等は、衛星測位システムで実現されています。米国のGPS、ロシアのGLONASS、ヨーロッパのGalileoなど、世界各国で衛星測位システムが運用されており、これらは総称してGNSS(Global Navigation Satellite System)と呼ばれます。日本の衛星測位システムは準天頂衛星システム「みちびき」(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)と呼ばれています。衛星測位システムは地上だけでなく、宇宙の衛星運用でも利用されています。例えば、地球観測衛星の位置・軌道を正確に知ることは、衛星が撮像した画像を処理するために非常に重要です。
PPP(高精度単独測位)方式とオンボード化について
複数のGNSS衛星から送信される、衛星の「位置」「時刻」の情報を持つ測位信号を1台の受信機で受信し、観測点の位置を決定する測位方法を「単独測位」といいます。
単独測位では、GNSS衛星の軌道と時刻の誤差や、その測位信号が受信機に届くまでに通過する大気や電離層の影響などを受け、約m~十数mの誤差が生じることがあります。しかし、誤差要因となる、大気や電離層の影響を補正する情報を使用して2周波測位を行うことで、衛星の精密な軌道時刻の決定が可能になり、cm級の精度で単独測位を行うことができます。この方式をPPP(高精度単独測位)方式といいます。
衛星の精密な軌道時刻を決定するには、複数のGNSS衛星が発する測位信号が必要です。その処理は地上で行われており、信号の送受信から処理まで、現状では数時間から数日が必要となります。
一方、QZSSからは、衛星の軌道時刻を補正するための「補強信号」がリアルタイムで配信されています。衛星に専用の受信機を搭載し、軌道上で高度な処理ができれば、QZSSからの補強信号が常に受信できる環境で、リアルタイムで高精度測位を行うことができます。
今回はこの技術を用いて、衛星の位置をリアルタイムに、cm単位の精度で合わせる実証を行う予定です。

従来の衛星は、衛星の位置を数mから数十mの精度でしか推定できない
- 撮影地にも最大数十mの誤差が生じる
- 衛星の位置や時刻の補正・推定に関する複雑な計算が地上で必要になる
- ユーザへの画像提供まで最大数日のロスが生じる

衛星が軌道上で、リアルタイムに 数cmの精度で位置を推定できる
- 同じ位置からの観測が可能になり変化をより高精度に比較できる
- 撮影と同時に正確な位置や時刻情報が判り、地上での推定作業が不要となる
- ユーザへの画像提供時間を数十時間短縮できる
PPP実現への取組
JAXAではPPPを実現するための研究開発を進め、地上でのリアルタイム測位において10cm以下の精度を達成しており、この技術を軌道上で実現する取組を進めています。
衛星でPPPを実現するための重要なポイントは、受信機と計算機の開発です。
QZSSからはPPPに必要な補強信号は既に送信されています。これを受信し活用するには専用受信機を衛星に搭載する必要がありますが、現在の受信機は大きくて重い特注品で、宇宙で使用するには多くの課題がありました。
また、専用受信機を搭載しただけでは高精度な測位は実現できず、軌道上でアルゴリズムのチューニングを複数回行うことにより、オンボードPPPに最適なパラメータを導出できる高性能な計算機の開発も必須でした。
今回、第一宇宙技術部門で研究開発を進めてきた小型衛星専用受信機と、研究開発部門で開発した高性能計算機とを組み合わせることで、オンボードPPP技術の軌道上実証が可能となりました。
軌道上実証にあたっては、共同研究相手方である株式会社QPS研究所が保有する衛星にJAXAが開発した機器を搭載し、技術実証を行う予定です。

本技術で何ができるようになるか
オンボードPPP技術では高精度位置推定を行う他にも、様々な効果が期待できます。
- これまで地上作業で推定してきた撮影位置や時刻情報が撮影した瞬間に判るようになるため、ユーザが観測画像を使用するまでの待ち時間を「数日」から「数時間」まで短縮できるようになります。また、地盤沈下や地震などの災害対応の際、本技術を採用することで、より鮮明な衛星画像に基づいた迅速な被害区域の判別を行えるようになります。
- 高分解能センサを搭載した地球観測衛星の地上システムで整備が必須である高精度軌道決定システムを簡素化することができるため、地上システムの運用省力化につながります。また、本技術を搭載することで各衛星での軌道・クロックの高精度推定が可能となり、低軌道衛星群の連携による、より安定した衛星測位サービスを提供するために必要となる航法メッセージ生成が可能となります。
詳しくはサテナビ オンボードPPPをご参照ください。
- 問合せ先:
- 小型技術刷新衛星研究開発プログラム(刷新P)
- e-mail:
- info-SASSHINP@ml.jaxa.jp