研究紹介

  1. ホーム>
  2. 研究紹介>
  3. 過去の研究>
  4. 複合材推薬タンクの開発

複合材推薬タンクの開発

寿命を迎えた人工衛星の多くは大気圏再突入時に燃え尽きますが、一部は燃え尽きず地上に落ちてくるため、地上での被害のリスクがあります。人工衛星の部品の中でも、“燃え尽きにくい”のが、軌道・姿勢制御エンジン用の液体推薬が入ったタンクです。 材料の融点の高さが主な原因ですが、従来のタンクから材料を変えることで溶融しやすいタンクを開発します。さらに従来より安価かつ短納期にして、海外にも売れるタンクを目指しています。

研究の概要

人工衛星に使われる従来のタンクの多くはチタン合金製です。性能を保ちながら、低コスト、短納期で溶融性の高い推薬タンクを開発するポイントは材料の選定にあります。チタン合金より融点が低く、かつ軽量で強度を考えた結果、 アルミ合金製のタンク全体に、カーボンファイバ強化プラスチック(CFRP)の繊維を巻いて覆う構成をとることにしました。開発中のタンクは、アルミ合金とCFRPからなるため「複合材推薬タンク」とよばれています。 我々は、性能や安全性を、様々な解析や実験で評価しました。溶融性については、解析だけでなく、構造技術研究グループ及び風洞技術開発センターの協力を受けレーザー加熱試験やアーク加熱風洞試験で確認しました。 また、無重力環境でも推薬がエンジンに供給できることも落下棟を使った微小G試験で確認しました。様々な評価の中で、推薬のヒドラジンにタンク材料が溶け出さないか、変質して材料強度が落ちないかは重要な課題でした。 実験の結果、15年以上問題ないことが確認されています。今後は、試作と認定を行う予定です。世界の人工衛星の標準的なタンクとしての実用化が期待されています。

複合材推薬タンクの構造
アルミタンクにCFRPを巻いて製作する。
アーク風洞試験の様子
アルミ合金とCFRPの複合材を再突入空力加熱環境にさらし溶融性を評価した。

研究成果(より詳細な研究内容)

複合材推薬タンク試作のファーストステップとして、現在実際の形状よりも短いタンク(試作#1)を製作中です。内側のアルミタンクは1枚の板をスピニングという技術を使ってお椀型にし、これを2個合わせて中央をレーザーで溶接して作ります。 製作したアルミタンクにフィラメントワインディングという手法でCFRPを外側から巻けばタンクは完成となります。

地上で使用するタンクと宇宙用タンクの大きな違いの一つに、内部デバイスがあります。無重力状態では推進薬が浮いてしまい排出がうまくできなくなるため、推進薬を排出口まで誘導する機構が必要となります。 複合材推薬タンクでは、細長いベーンという板と排出口近くにたくさんのフィンが入ったクラムという機構をタンクの内部に持っています。このような内部デバイスが、ロケット打ち上げの振動環境に耐えられるかどうかも、地上試験で確認しています。

試作#1のアルミライナー
この後CFRPを巻いていく。
内部ベーンの構造

このページのトップへ戻る