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電力効率の向上を目指した固体電力増幅器(SSPA)の開発

衛星に搭載される通信機器のうち、最も電力を消費する機器が電力増幅器です。使用できる電力に限りがある衛星においては、消費電力の削減が必要になります。

第一研究ユニットでは、衛星の維持・運用や衛星から地上への観測データの伝送に使用される通信用電力増幅器の小型・低消費電力化に向けた研究開発をしています。

研究の概要

従来のTWTA(進行波管電力増幅器)を使った通信システムからSSPA(固体電力増幅器)を使った通信システムに転換し、衛星の高機能化、運用性向上を目指しています。

衛星は地球から数100km~数億km離れた場所から情報を送っています。地球に届く信号を大きくするために、衛星は信号を増幅してから送る必要があります。

SSPA(固体電力増幅器)の性能を向上させることで、これまで使われてきたTWTA(進行波管電力増幅器)に代わって、様々な衛星に使用することができるようになります。 また、SSPAには衛星の打ち上げ直後から使用できるという運用上のメリットもあります。

開発中のSSPA 外観図

現在、信号を増幅させる半導体素子にGaN(窒化ガリウム)を採用することでSSPAの性能を向上させる研究を行っています。

研究成果(より詳細な研究内容)

GaNデバイスの採用によるSSPAの高性能化

電力増幅器は、増幅する信号の周波数が高くなるほど、電力効率が低く(消費電力が大きく)なります。そのため、これまで高周波帯ではTWTA(進行波管電力増幅器)が使用されてきました。

GaN(窒化ガリウム)がGaAs(ガリウムヒ素)に比べて、優れた材料特性を有することに着目し、小型・軽量が特徴のSSPA (固体電力増幅器)の信号増幅部にGaNデバイスを採用することで、 SSPAの高性能化によりTWTAとの置き換えを狙っています。

現在、地球観測衛星と科学衛星の両方に効果の大きい、X帯(8GHz帯)の増幅器への適用から研究開発を進めています。

半導体デバイスの材料特性

材料特性 GaAs GaN  
バンドギャップ[eV] 1.43 3.39 放射線耐性向上
絶縁破壊電圧[V・cm-1 0.4×106 3.3×106 出力パワー向上
電子移動度[cm・V-1・s-1 8500 2000
(2DEG)
 
飽和電子速度[cm・s-1 1.3×107 2.8×107  
熱伝導度[W・cm-1・K-1 0.5 1.3 電力効率向上
最大電流[A・mm-1 0.5 1.1  
2つのモデルで地球観測衛星と科学衛星に対応

GaNデバイスの調整を変えることで、共通の筐体でありながら、衛星が求める性能に合わせて最適な性能とする設計思想により、衛星プロジェクトのミッションをサポートします。

  • 広帯域モデル
    地球観測衛星における観測データの大容量化に伴い高速データ伝送に対応した広帯域モデル。
    目標主要性能は、帯域幅300MHz、出力電力20W以上、電力効率30%。
  • 狭帯域モデル
    科学衛星における維持・運用通信回線(TT&C)と高速データ伝送の両方での利用を想定した狭帯域モデル。
    科学衛星に求められる消費電力削減や発熱の低減のため、電力効率の向上に特化した設計としています。
    目標主要性能は、帯域幅50MHz、出力電力20W以上。電力効率の目標値は35%。

発表論文等

  • 中台光洋、粟野穰太、谷島正信、舟橋政弘、坂田智:「GaNデバイスを用いた衛星搭載用20W級X帯SSPAの開発 ~システム評価による実現性検討~」,電子情報通信学会技術研究報告. SANE, 宇宙・航行エレクトロニクス, Vol.114, No.87, pp.75-78, 2014.
  • Mitsuhiro Nakadai,Johta Awano,Masaaki Shimada,Masahiro Funabashi, ”Development of a 20W class X-band Amplifier using GaN HEMT Technology for Space Use”, International Conference on Space, Aeronautical and Navigational Electronics 2013, Vol. 113, No, 335, pp.81-86, 2013.

アウトカム

SSPAの高性能化によって、高速通信システムを小型・中型衛星でも実現できるようになります。
また、GaNデバイスの高出力化により、通信用途以外(レーダー等)への応用も期待できます。

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