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擾乱応答予測手法の研究

人工衛星に搭載する機器の中には、運用時に微小な振動を発生するものがあります。衛星の姿勢制御に使用するリアクションホイールがその典型例です。この微小振動は擾乱と呼ばれ、衛星の構造体を破壊するようなものではありませんが、 観測センサ等が所定の性能を出せないと言った最も致命的な問題を発生する要因になります。例えば、カメラの手振れに似ています。 人工衛星は問題があることが分かっても自動車や電車のように人が直しにその場に行けないため、ロケットの打ち上げ前もしくはモノ作りを始める前に擾乱の影響を把握する必要があります。 本研究では、衛星の開発の初めの段階で精度よく擾乱の影響を推定するツールを構築します。

研究の概要

原理
テストベッド

一般的に人工衛星の開発ではロケットで打ち上げるフライトモデル(FM)を作り始める前に、構造が同じエンジニアリングモデル(EM)を製作し、振動試験等の様々な開発試験に供します。その試験を通して、FMを製造する上での設計に間違いがないことを確認してからFMを製造します(最近ではEMを手直し(リハービッシュ)してFMに使いまわすことで、コストダウンとスケジュール短縮を図る場合もあります)。また、姿勢制御用機器も同じようにEMを製作しますし、新規開発のセンサ等の観測機器もFMを作る前にセンサとして機能する構造も似た機能モデル(FCM)を製作します。そのため、開発の早い段階でも似た構造のものが存在しているのです。これらを合体し、宇宙空間で浮いているように人工衛星を支持した上で、擾乱を発生させる機器(擾乱源)を稼働すれば、擾乱の影響を評価できます。しかし残念なことに、これらのEMとFCMが一堂に会する機会を設けるのは通常衛星の開発スケジュール上極めて稀なことなのです。そのため、EMとFCMを個別に試験を行った上で、これらの個別のデータを解析的に合成することで、実際に衛星として合体したときの擾乱の応答を推定する方法を考えました。


研究の方針としては、まず伝達関数合成法(ビルディングブロック法)を使って擾乱応答の予測理論を構築しました。次に、実際の衛星の構造を模したテストベッド(衛星模型)を製作し、これと小型のリアクションホイールを用いて理論の実証を行いました。

また、実際に試験を行わなくても計算機を用いた構造解析だけ擾乱の応答を推定することができれば、早めに擾乱の対策に目途をつけられる利点があります。また、多少構造変更があった場合でも構造数学モデルを修正すれば、すぐに推定値を更新することができます。そこで、構造解析に使用する構造数学モデルを精度よく製作する手法に関する研究も行いました。

 width=
テストベッド搭載小型ホイール
小型ホイール単体

研究成果(より詳細な研究内容)

擾乱応答予測手法の実証
小型ホイールの
稼働時動質量測定時の風景

擾乱応答の推定には擾乱源の動質量が必要となることが分かりました。動質量とは相手方に固定する点での(力/加速度)の質量の単位をもっている伝達関数です。本研究では小型ホイールを用いてこの動質量を実測し、さらに使い易い近似モデルを提案しました。その結果、実際に小型ホイールをテストベッド(*参考:発表文献[1])に搭載した測定した応答値と比較的似た応答を推定することに成功しました。

小型ホイールの稼働時動質量(回転成分)
構造数学モデルの高精度化

構造数学モデルの精度を上げるためには、モーダル試験を行い、取得したモーダルパラメタをもとに構造数学モデルをチューニングするのが一般的です。本研究では、構造物の結合部に注目して、テストベッド全体のモーダル試験に加えてバス構体部(下部構造)も試験を行い、部分構造レベルからモーダルパラメタの取得とチューングを行いました。特に締結部の面当り等を考慮しながら段階的に全体系に組み上げていった結果、周波数上限300Hzまでに振動モード30個という驚異的な精度のコリレーション(合わせ込み)に成功しました。

小型ホイールをテストベッドに搭載して
稼働した際の実応答
擾乱応答予測手法を用いて推定した応答値
MAC(Modal Assurance Criterion)マトリックス
(左図がパラメタチューニング前、右図がパラメタチューニング後)
赤のドットが真ん中に直線状にならぶほど良い結果

参考文献

  • [1]内田他,「擾乱試験用衛星構体テストベッド」, 宇宙航空研究開発機構研究開発資料, JAXA-RM-11-003
  • [2]内田他,「宇宙機の擾乱解析に向けた有限要素モデル化とコリレーション技術に関する研究」,日本航空宇宙学会主催 第55回構造強度に関する講演会講演論文集, 室蘭市, 2013
  • [3]内田,「衛星模擬構体を用いた擾乱応答予測手法の実験的検証」,日本航空宇宙学会主催 第56回構造強度に関する講演会講演論文集, 浜松市, 2014
  • [4]Komatsu.K, and Uchida.H, “Microvibrations in Spacecraft” , Bulletin of the JSME, Mechanical Engineering Reviews, Vol.1, No.2, 2014 (日本機械学会オンラインジャーナル)

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