研究紹介

  1. ホーム>
  2. 研究紹介>
  3. 長寿命化研究>
  4. 機械式冷凍機 寿命評価試験>
  5. フランスと協力して実施したクローズドサイクル希釈冷凍機システム評価試験の結果について

フランスと協力して実施したクローズドサイクル希釈冷凍機システム評価試験の結果について

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、フランス国立宇宙センター(CNES)との機関間協力の枠組みの元、双方の担当部分を組み合わせたクローズドサイクル希釈冷凍機システムの評価試験を行い、0.07K*1の極低温を生成するなど当初の目標を達成しながら試験を完了しました。

宇宙科学ミッションの天文観測などで使われる高感度観測装置は、微弱な電磁波を高精度に捉えられるよう、信号の熱雑音を低減させる必要があります。そのため、検出器を絶対零度(約-273℃) 近くまで冷却して動作させます。宇宙用希釈冷凍機は、このような高感度観測装置に求められる0.1K*1以下という極低温を、宇宙空間において無磁場かつ高い冷凍能力で生成できる冷凍機です。 特にクローズドサイクル式は、従来よりもさらに高い冷凍能力(オープンサイクル式の0.1Kでの冷凍能力0.1μWに対して、0.05Kにて10倍の1μW)を獲得し、同時に軽量化と(オープンサイクル式用冷媒タンクが不要)と 大幅な長寿命化(1.5年 → 5年)を可能とします。

2015年5月にフランスにて行われた地上技術実証では、本実験設計上の最低到達温度である0.07Kを達成し、冷凍能力などの冷却特性評価試験も追加で行うことができました。また、測定結果に基づいた解析により、 0.05Kでの冷凍能力1μWを実現するための設計解を得ることができ、当初の目標は達成することができました。

本実験で得られた成果を受けて、宇宙背景放射偏光観測衛星LiteBIRDや、欧州が中心となって提案中の次期X線天文衛星Athena(日本も参加を提案)では、最終冷却装置として本冷凍機の搭載可能性を検討しています。 今後も本冷凍機の改良を進め、次期天文衛星と連携しながら早期実現を目指します。

*1 0K = -273.15℃

 

クローズドサイクル希釈冷凍機について

希釈冷凍機は、ヘリウムの同位体であるヘリウム3(3He)とヘリウム4(4He)を用い、1K前後の低温下で、両者の適切な比率となる流量を保ちながらうまく混合・分留することで、吸熱反応が起こり0.1K未満を作り出します。 この希釈冷凍技術は、地上の冷凍機としては広く用いられていますが、通常は冷却サイクルの中で重力を用いるため、宇宙では実現が困難な技術とされていました。2009年に打ち上げられた欧州の宇宙背景放射観測衛星Planckでは、 重力の代わりに毛細管力を利用した冷却サイクルの技術を実現し、世界で初めて宇宙空間での希釈冷凍機による0.1Kの生成に成功しました。 この衛星では左図のように、真空の宇宙空間を天然のポンプとして利用したオープンサイクル式(冷媒は宇宙空間に放出し失われる)を採用しました。そのため、冷凍能力は比較的低く運用期間も約2年と短寿命でした。

クローズドサイクル式希釈冷凍機では、2つのヘリウム同位体を分留器で分留した後、室温部に用意したヘリウム3圧縮機(ポンプ)でヘリウム3を、約2Kの低温領域に用意したヘリウム4ポンプでヘリウム4を循環させることで、 Planckよりも10倍高い冷凍能力を持ちつつ大幅な長寿命化(2年→5年以上)と軽量化(オープンサイクル式のような大きな冷媒タンクが不要)が可能となります(右図)。 冷凍能力の向上は、観測装置の高感度化と多素子化を実現し、宇宙大規模構造の姿を明らかにするなど、今後の宇宙科学ミッションに大きく貢献することが期待できます。

宇宙用クローズド希釈冷凍機

 

日本担当のヘリウム3圧縮機の試作モデル

上記に述べたように、クローズドサイクル希釈冷凍機の実現にはヘリウム3の循環が必要となります。そこで、日本で長年培ってきた、世界最高レベルの熱効率・低電力の宇宙用機械式冷凍機の技術が注目されました。 特に、日本で開発された1K級ジュールトムソン冷凍機に用いる低圧用圧縮機を改良すれば、ヘリウム3圧縮機の早期実現が大いに期待できます。一方、フランス(CNESやCNRS = フランス国立科学研究センター)にとって 宇宙用の低圧用圧縮機を高い熱効率で実現することは、新規開発のため技術的ハードルの高いものでした。さらに、日本とフランス双方にとって、独自開発は大きな資金・人的資源・開発期間が必要となります。 そこで、双方の得意技術を活かし、共同で研究開発を進めることとしました。

ヘリウム3圧縮機の研究開発の道のりは、日本にとっても簡単ではありませんでした。例えば、1級ジュールトムソン冷凍機の低圧段圧縮機は、約8kPaの低圧を作り出しますが、ヘリウム3圧縮機に求められていたのはさらに1/10程度の 0.8kPa未満(ただし流量は1/20以下で良い)でした。新設計のバルブや、直径の大きな新型ピストンを用いるなど、約3年以上(要素技術の試作など含めればさらに2年)の研究期間を経て、ようやく試作モデルが完成しました。 下図はヘリウム3圧縮機システムの試作モデルで、3台の圧縮機を直列に接続することで、求められる性能(吸込圧や吐出圧および流量)を満たすことができました。

試作モデル

 

フランスで行われたクローズドサイクル希釈冷凍機の評価試験

実験はフランスのグルノーブルにあるCNRS ニール研究所で行われました。左側はフランスでの実験セットアップの様子で、手前に日本担当のヘリウム3圧縮機、奥にフランス側担当部分(低温部が導入されたクライオスタットやガス制御パネル、 およびガスボンベ)が見えます。本評価試験の目標は主に、1)本試験のセットアップで0.1K以下に到達すること、2)想定される衛星搭載時性能(0.05Kで冷凍能力1μW)の実現性を示すこと、などでした。 実験装置一式を輸送してからの試験準備に数ヶ月を要しましたが、結果として右図のように0.07K(本評価試験で用いた低温部の設計上の最低温度)の到達に成功すると共に、測定結果に基づく解析を用いることで、 搭載時性能を実現するための設計解を示すことができました。

評価試験